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4.4 ケイ素(ケイ酸)

4.4.1 塩酸法

A 適用範囲
 ケイ酸質肥料を主な対象とするが、その他リン鉱石などにも応用することができる。本法は一般に4.4.2より迅速性などにおいて劣るが、ケイ素全量などの定量にはかえって適用しやすい。
B 試料液の調製
a ケイ素(ケイ酸)全量
1)フッ素を含有しない場合
 分析試料0.5~1gをめのう乳鉢に正確にとりよく粉砕し、5倍量以上の無水炭酸ナトリウムまたは無水炭酸ナトリウムと無水炭酸カリウムとの等量混合物を加えよく混合して白金るつぼに移し、初めは低温で加熱し次いで徐々に強熱し、時々白金るつぼを揺り動かし内容が完全に融解していることを確かめ約30分後加熱をやめる。放冷後白金るつぼとともにビーカーに入れその固塊を熱水で溶かし、白金るつぼを洗い去り塩酸を加えて強酸性とする。
2)フッ素を含有する場合
 分析試料0.5~1gをめのう乳鉢に正確にとりよく粉砕し、以下前項1)により融解し、固塊を熱水で溶かし白金るつぼを洗い去り定量用ろ紙でろ過し熱水で洗浄する(この沈殿をとする)。次にそのろ液に炭酸アンモニウムの粉末約2gを加え約40℃の水浴中で1時間加温し、放冷後更に炭酸アンモニウム約1gを加え一夜間放置してケイ素、アルミニウムなどを沈殿させこれを定量用ろ紙でろ別し、ろ紙上の沈殿は約2%炭酸アンモニウム液で洗浄する(この沈殿をとする)。ろ液は蒸発乾固して過剰の炭酸アンモニウムを分解除去し、残留物は少量の水に溶かしフェノールフタレイン〔4.1.5.1.B.5).iii)による〕を指示薬としてその紅色が消失するまで硝酸を滴下して中和し(液温が高いときは冷却して中和する)、更に中性を保ちながら蒸発乾固して、これに酸化亜鉛1gに相当する亜鉛-アンモニア液(酸化亜鉛1g及び炭酸アンモニウム2gを水20mlに溶かし、アンモニア水20mlを加えて沈殿をことごとく溶かす)を加え煮沸して炭酸アンモニウムを除き、アンモニアの臭気がまったくなくなってから煮沸をやめ定量用ろ紙でろ過し熱水で洗浄する(この沈殿をとする)。このようにしてフッ化物を取り去った沈殿A・B・Cを集めろ紙とともに乾燥・強熱灰化したのち、ビーカーに入れ塩酸を加えて強酸性とする。
b 可溶性(0.5M塩酸可溶性)ケイ素(ケイ酸)
 分析試料1gを250mlのメスフラスコに正確にとり、30℃の0.5M塩酸150mlを加え1分間30~40回回転の振り混ぜ機で1時間振り混ぜたのち(浸出中は30℃に保つこと)、速やかに常温に戻し標線まで水を加えて直ちに乾燥ろ紙でろ過する。
c 水溶性ケイ素(ケイ酸)
 分析試料2.5~5gを500mlのメスフラスコに正確にとり、水約400mlを加え1分間30~40回回転の振り混ぜ機で30分間振り混ぜたのち、標線まで水を加えて直ちに乾燥ろ紙でろ過する。
C 定量
 試料液の全部または一定量を磁製蒸発皿またはビーカーに正確にとり、水浴上で蒸発乾固する。これに塩酸(1+1)数mlを加えて蒸発乾固することを数回繰り返したのち、110~120℃の空気浴に入れて十分乾燥脱水し放冷する。次に塩酸(1+4)約50mlを加え加熱して溶かしたのち直ちにろ過し、沈殿を温塩酸(1+10)で2回洗浄し、次いで熱水で塩化物の反応がなくなるまで洗浄する。沈殿は乾燥・強熱したのち、ケイ酸(SiO)として重さを正確に量り、またはこれに係数0.4674を乗じてケイ素(Si)の量を算出する。
(付記)
1.ろ液中に漏れたケイ素については、必要に応じて再分離し結果を補正する。
2.重さを量った沈殿に不純物が混入すると思われる場合には、この沈殿を少量の硫酸(1+3)で潤し、46%フッ化水素酸3~5mlを加え注意して加熱しケイ素及び硫酸を揮散させ、ケイ素が残留すれば更にこの操作を反復してそのことごとくを揮散させたのち、強熱し重さを正確に量ってその減量をケイ酸(SiO)の量とする。

4.4.2 過塩素酸法

A 適用範囲
 ケイ酸質肥料を主な対象とするが、その他の試料でもケイ素の分離あるいは定量に広く応用できる。クエン酸など有機物が共存する場合にはその分解を兼ねることができる。ただし有機物の多い場合には爆発の危険があるために、硝酸などで予備的に分解しておくのがよい。
B 試料液の調製
C 定量
 試料液の全量または一定量をトールビーカーに正確にとり、過塩素酸10mlを加え加熱、蒸発し、過塩素酸の白煙が発生するようになったならば時計皿で覆い、なお15~20分間加熱を続ける。放冷後塩酸(1+10)約50mlを加え70~80℃で数分間加熱したのち、4.4.1.Cの「直ちにろ過し」以下によりケイ素(ケイ酸)を定量する。
(付記)
 リン鉱石の場合には、分析試料1gをビーカーに正確にとり、ホウ酸1g及び水約20mlを加え、加熱してホウ酸の大部分を溶かす。放冷後、過塩素酸20mlを加え、次いで上記の「加熱、蒸発し」以下により、ケイ素(ケイ酸)を定量する。なお、この場合には重さを量った沈殿中に不純物が混入することが多いので、4.4.1.C.(付記)2.に従って補正した値をケイ素(ケイ酸)の量とするのがよい。

4.4.3 フッ化カリウム法

A 適用範囲
 ケイ酸質肥料の可溶性ケイ素(ケイ酸)の定量に適する。ケイ素(ケイ酸)全量の場合にはアルカリ融解剤として水酸化ナトリウムを使用するとよい。
B 試薬液の調製
1)標準水酸化ナトリウム液
 水酸化ナトリウムの0.1M溶液を作成し、4.1.1.1.B.1)によりその濃度を標定し1mlに相当するケイ素(Si)またはケイ酸(SiO)の量を算出する。
2)フッ化カリウム液
 フッ化カリウム58gを水1000mlに溶かしポリエチレン瓶に貯蔵する。
3)塩化カリウム液
 塩化カリウム150gを、水750ml及びアルコール250mlの混合液に溶かし、メチルレッドを指示薬として少量の塩酸を滴下して酸性とし、1日間放置後標準水酸化ナトリウム液で中和する。
4)指示薬
i)メチルレッド
ii)フェノールフタレイン
C 試料液の調製
 4.4.1.Bによる。
D 定量
 試料液の一定量(Siとして10~25mgまたはSiOとして20~50mgがよく、液量25ml以下)を200ml容のポリエチレン製ビーカーに正確にとり、塩酸10ml及びフッ化カリウム液15mlを加え、更に塩化カリウム2gを加えかき混ぜて溶かす。次に冷蔵庫中で約30分間冷却したのち、ポリエチレン製グーチるつぼにろ紙を敷いてろ別し、塩化カリウム液で中性になるまで洗浄する。ろ紙上の沈殿はろ紙とともに水で300ml容のビーカーに移して約200mlに希釈し、70~80℃に加熱したのち、フェノールフタレインを指示薬として標準水酸化ナトリウム液で滴定し、ケイ素(Si)またはケイ酸(SiO)の量を算出する。
   0.1M水酸化ナトリウム液1ml=0.7021mgSi=1.5021mgSiO
(付記)
 沈殿がろ紙から漏れるおそれのある場合には、ろ紙を細かくちぎり、水を加えてかき混ぜ、繊維状としたろ紙くず(液)をろ紙上に薄く敷いてろ別するとよい。

4.5 カルシウム(石灰)及びアルカリ分

4.5.1 カルシウム(石灰)

4.5.1.1 シュウ酸アンモニウム法

A 適用範囲
 カルシウムを含有する肥料に適用する。本法は同時にカルシウムの除去に用いることもでき、4.6.1によりマグネシウムを定量する際の前処理に応用できる。
B 試薬液の調製
1)標準過マンガン酸カリウム液
 過マンガン酸カリウム(KMnO)3.16gを水約800mlに溶かして煮沸し、水を加えて1000mlとし1~2日間放置したのち漏斗形ガラスろ過器(G4)でろ過し0.1M(1/5KMnO)溶液を作成して着色瓶に貯蔵し、次の方法によりその濃度を標定する。
 標準試薬シュウ酸ナトリウム(Na;150~200℃に1~1.5時間保ち硫酸デシケーター中で放冷したもの)0.3gをビーカーに正確にとり、あらかじめ煮沸してから25~30℃に冷却した硫酸(1+20)約250mlを加えて溶かす。これに標準過マンガン酸カリウム液約40mlを穏やかにかき混ぜながら急速に加え、過マンガン酸の色を完全に消失させたのち55~60℃に加温する。更に滴定を続け最後の1~1.5mlはゆっくりと加え、溶液が微紅色となったときを終点として(着色して30秒以内に消えるものであってはならない)その濃度を標定する。
  シュウ酸ナトリウム0.3g=0.1M(1/5KMnO)液44.78ml
2)シュウ酸アンモニウム液
 シュウ酸アンモニウム〔(NH・HO〕の飽和液を作成する。
3)ペルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)液
 ペルオキソ二硫酸アンモニウム〔(NH〕20gを水に溶かして100mlとする。使用直前に作成するのがよい。
C 試料液の調製
a カルシウム(石灰)全量
1)無機質肥料
 分析試料2.5~5gをトールビーカーに正確にとり、塩酸約30ml及び硝酸約10mlを加えて約30分間煮沸し、放冷後水を加えて正確に250~500mlとし乾燥ろ紙でろ過する。
2)有機質肥料または有機物を含有する肥料 4.3.1.C.a.3)による。
b 可溶性(0.5M塩酸可溶性)カルシウム(石灰)
 分析試料2gをトールビーカーに正確にとり、0.5M塩酸200mlを加え時計皿で覆い5分間煮沸して溶かし、冷却後水を加えて正確に250~500mlとし乾燥ろ紙でろ過する。
(付記)
 多量のマグネシウム(MgOとして約70%以上)を含有し上記の方法では0.5M塩酸の量が不足する場合には、分析試料を1~1.5gとする必要がある。
D 定量
 試料液の一定量をビーカーに正確にとり、あらかじめ4.4.1.Cまたは4.4.2.Cに従ってケイ素を除去し、更にマンガン含量の高い場合にはアンモニア水で微酸性に中和したのちペルオキソ二硫酸アンモニウム液約20mlを加えて煮沸して二酸化マンガンを生成させ、これをろ過し、熱水で洗浄して除去する。ここで得られたろ液の全量またはその一定量を正確にビーカーに分取し(Caとして15~70mgまたはCaOとして20~100mgがよい)、アンモニア水を加えて中和し、塩化アンモニウム1~2gとやや過剰の酢酸アンモニウムとを加え煮沸・ろ過・熱水洗浄して鉄及びアルミニウムを除去したのち、シュウ酸アンモニウム液を加え激しくかき混ぜてシュウ酸カルシウムを沈殿させ、水浴上で0.5~2時間加熱したのち、ろ過して熱水で洗浄する。ろ紙上の沈殿はろ紙とともに元のビーカーに移し、硫酸(1+5)約50ml及び熱水約150mlを加えて溶かし、60~70℃に加熱しろ紙を崩さないようにして標準過マンガン酸カリウム液で滴定し、溶液が微紅色となったときを終点として(着色して30秒以内に消失するものであってはならない)カルシウム(Ca)または酸化カルシウム(石灰)(CaO)の量を算出する。
 0.1M(1/5過マンガン酸カリウム)液1ml=2.004mgCa=2.804mgCaO

4.5.1.2 原子吸光測光法

A 適用範囲
 本法は比較的カルシウム含有量の低い試料に特に好適であり、含有量の高い場合にはやや誤差が大きい。
B 装置
 原子吸光分析装置 カルシウム中空陰極ランプ。
C 試薬液の調製
1)標準カルシウム液
 特級炭酸カルシウム(CaCO;110℃で乾燥したもの)2.497gを1000mlのメスフラスコにとり、塩酸(1+3)20mlに溶かしたのち標線まで水を加えて標準カルシウム原液を作成する(この液1mlはCaとして1mgを含有する)。使用に際してこの原液の一定量を水で正確に10倍に希釈する(この液1mlはCaとして100μgを含有する)。
 なお標準カルシウム液として炭酸カルシウム1.785gを同様に塩酸(1+3)に溶かし正確に水で1000mlとした液を原液とし(この液1mlはCaOとして1mgを含有する)、この液を使用に際して水で正確に10倍に希釈してもよい(この液1mlはCaOとして100μgを含有する)。
2)干渉抑制剤液
 塩化ストロンチウム(SrCl・6HO)60.9~152.1gを水及び塩酸420mlに溶かし1000mlとする。あるいは塩化ストロンチウムの代わりに塩化ランタン(LaCl・7HO)53.5gを用いてもよい。
D 試料液の調製
E 定量
 試料液の一定量(Caとして0.3~4mgまたはCaOとして0.5~6mgがよい)を100mlのメスフラスコに正確にとり、干渉抑制剤液10mlを加え標線まで水を加え、原子吸光分析装置により波長422.7nmの吸光度を測定する。同時に標準カルシウム液を数段階に正確にとり、これに干渉抑制剤液を最終液量の1/10ずつ添加し正確に一定濃度に希釈した液につき試料液と同一条件で吸光度を測定して検量線を作成し、試料中のカルシウム(Ca)または酸化カルシウム(石灰)(CaO)の量を求める。

4.5.2 アルカリ分

4.5.2.1 塩酸法

A 適用範囲
 生石灰、消石灰、炭酸カルシウムなどに適用する。ケイ素、リン、マンガンなどの含有量の多い試料(ケイ酸カルシウム、熔成りん肥など)には適用できないので、4.5.2.2によるか、4.5.1.1及び4.6.1により可溶性カルシウム及び可溶性マグネシウムを別々に定量し、これらを石灰(CaO)に換算してその合計量をアルカリ分とする必要がある。
B 試薬液の調製
1)標準水酸化ナトリウム液
 4.1.1.1.B.1)により水酸化ナトリウムの0.25M溶液を作成し、1mlに相当する石灰(CaO)の量を算出する。
2)標準塩酸液
 塩酸の0.5M溶液を作成し、標準水酸化ナトリウム液でその濃度を標定する。
3)指示薬
 フェノールフタレイン 4.1.5.1.B.5).iii)による。
C 試料液の調製
 分析試料1gをトールビーカーに正確にとり、標準塩酸液100mlを正確に加えて時計皿で覆い5分間煮沸する。この際必要があればろ過して熱水で洗浄しろ液及び洗浄液を集める。
(付記)
 標準塩酸液は少なくともその約1/3が過剰になるように加える必要があり、不足するときは分析試料の量を適宜減らす必要がある。
D 定量
 試料液の全量、または水で正確に200mlまたは250mlに希釈した液の一定量を正確にとり、指示薬としてフェノールフタレイン数滴を加えて標準水酸化ナトリウム液で余剰の塩酸を滴定し、分析試料100部を中和するのに要する標準塩酸液の量に相当する標準水酸化ナトリウム液の量を算出し、その量を酸化カルシウム(CaO)の量に換算してアルカリ分とする。
    0.25M水酸化ナトリウム液1ml=7.010mgCaO
(付記)
 カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、酸化マグネシウム(MgO)より酸化カルシウム(CaO)に換算するには次の係数を用いる。
 CaO=Ca×1.3992=Mg×2.3073=MgO×1.3914

4.5.2.2 エチレンジアミン四酢酸塩法

A 適用範囲
 カルシウム及びマグネシウムを含む肥料に適用することができる。ただしマンガンが特に多い肥料では、4.5.1.1.Dに従ってあらかじめこれを除去することが必要である。
B 試薬液の調製
1)標準亜鉛液
 標準試薬亜鉛(Zn)〔塩酸(1+3)、水、アセトンで順次洗い、直ちに無水塩化カルシウムデシケーターまたは硫酸デシケーター中で24時間以上乾燥したもの〕0.65~0.66gを1000mlのメスフラスコに正確にとり、塩酸10mlを加えて溶かし、標線まで水を加えて0.01M溶液(0.6537gZn/l)を作成する。
2)標準エチレンジアミン四酢酸塩液
 エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(Na1012N・2HO)3.72gを水に溶かして1000mlとし約0.01M溶液を作成し、次の方法によりその濃度を標定し、1mlに相当する酸化カルシウム(CaO)の量を算出する。
 標準亜鉛液25mlを三角フラスコに正確にとり、水約15ml及び塩化アンモニウム緩衝液約5mlを加え、エリオクロムブラックTを指示薬として標準エチレンジアミン四酢酸塩液で滴定する。
3)標準マグネシウム液
 特級マグネシウム(Mg)0.243gを塩酸10mlに溶かし、適量の水を加えメチルレッドを指示薬として希アンモニア水で中和したのち水を加えて1000mlとする。その濃度は標準マグネシウム液25mlを三角フラスコに正確にとり、水約15ml及び塩化アンモニウム緩衝液約5mlを加え、エリオクロムブラックTを指示薬として標準エチレンジアミン四酢酸塩液で滴定して標定する。
4)緩衝液
i)塩化アンモニウム緩衝液
 塩化アンモニウム70g及びアンモニア水570mlを水に溶かして1000mlとする。
ii)2-アミノエタノール緩衝液
 2-アミノエタノール(モノエタノールアミン)150mlに水400mlを加え、これに塩酸約20mlを徐々に加え、pHを10.6に調節する。
5)シアン化カリウム液
 シアン化カリウム(KCN)100gを水に溶かして1000mlとする。
6)指示薬
i)エリオクロムブラックT
 エリオクロムブラックT0.5g及び塩化ヒドロキシルアンモニウム(塩酸ヒドロキシルアミン)4.5gを95%アルコールに溶かして100mlとし着色瓶に貯蔵する。
ii)メチルレッド
C 試料液の調製
(付記)
 マンガンが特に多くマスキングでは完全に影響を除けない場合には、あらかじめ4.5.1.1.Dによりマンガンを除く必要がある。
D 定量
 試料液の一定量(CaO+MgOとして5~20mgがよい)を三角フラスコに正確にとり、適量の水を加えメチルレッド1滴を指示薬として希水酸化ナトリウム液で中和し、アスコルビン酸約0.1g(または10%過酸化水素水2~5ml)、トリエタノールアミン(1+3)1~10ml及びシアン化カリウム液1~10ml(マンガンが存在するときは、シアン化カリウム1~5gを加える)を加え、更に標準エチレンジアミン四酢酸塩液の過剰の一定量を正確に加え、次いで塩化アンモニウム緩衝液または2-アミノエタノール緩衝液約20ml及び指示薬としてエリオクロムブラックT数滴を加えて余剰のエチレンジアミン四酢酸塩を標準マグネシウム液で滴定し、滴定値を酸化カルシウム(CaO)の量に換算してアルカリ分とする。
 0.01Mエチレンジアミン四酢酸塩液1ml=0.5608mgCaO
 なお試料液の一定量に2%クエン酸液約5mlを加えて希水酸化ナトリウム液で中和し、以下前記のようにマスキング剤及び緩衝液を加えたのち、直ちに標準エチレンジアミン四酢酸塩液で滴定してもよい。また試料液にリン酸塩、ケイ酸塩などを含有しない場合には、クエン酸を加えなくても直接滴定することができる。
(付記)
 滴定終了後の廃液にはシアン化物が含まれるので、そのまま捨てることはできない。廃液はポリエチレン容器などにため、シアン化物を分解したのちに放流する。分解のためには、廃液に水酸化ナトリウム液を加えてpH10前後にしたのち、1000mlにつき高度さらし粉(有効塩素60%以上)約30gまたは次亜塩素酸ナトリウム液(有効塩素10~13%)約100mlの割合で徐々に加え、1時間以上放置したのち、シアン化物の残存の有無を調べ、分解が終わっていれば大量の水とともに排出する。(あるいは必要により重金属などの除去処理工程に移す。)

4.5.2.3 原子吸光測光法

A 適用範囲
 カルシウム及びマグネシウムを含有する肥料に適用する。
B 装置
 原子吸光分析装置 カルシウム中空陰極ランプ及びマグネシウム中空陰極ランプ。
C 試薬液の調製
D 試料液の調製
E 定量
 4.5.1.2.Eにより酸化カルシウム(石灰)(CaO)の量を求め、4.6.2.Eにより酸化マグネシウム(苦土)(MgO)の量を求める。後者の量に係数1.3914を乗じて酸化カルシウム(CaO)の量に換算し、前者との合計量をアルカリ分とする。

4.6 マグネシウム(苦土)

4.6.1 エチレンジアミン四酢酸塩法

A 適用範囲
 マグネシウムを含有する肥料及び肥料原料に適用する。少量のマンガンの共存はシアン化カリウムの添加によりマスキングできるが、多量の場合にはあらかじめ4.5.1.1.Dに従って除去することが必要である。
B 試薬液の調製
1)標準亜鉛液
2)標準エチレンジアミン四酢酸塩液
 4.5.2.2.B.2)による。ただしその濃度を標定して1mlに相当するマグネシウム(Mg)または酸化マグネシウム(MgO)の量を算出する。
3)標準マグネシウム液
4)シュウ酸アンモニウム液
5)緩衝液
6)シアン化カリウム液
7)指示薬
i)エリオクロムブラックT
ii)メチルレッド
C 試料液の調製
a マグネシウム(苦土)全量
b 水溶性マグネシウム(苦土)
 分析試料1gを500ml容の三角フラスコに正確にとり、水約400mlを加え還流冷却器を付けて30分間煮沸し、冷却後水を加えて正確に500mlとし乾燥ろ紙でろ過する。
c 可溶性(0.5M塩酸可溶性)マグネシウム(苦土)
d ク溶性(クエン酸可溶性)マグネシウム(苦土)
(付記)
1.多量のマグネシウム(MgOとして約70%以上)を含有し、上記の方法ではクエン酸液の量が不足する場合には、分析試料を1gの代わりに0.5gとして試料液を作成する必要がある。
2.原料としてキーゼリットを使用した複合肥料でク溶性マグネシウム(苦土)を定量する場合には、上記のの水溶性マグネシウム(苦土)の試料液作成の際に得られる不溶解物を水で洗浄後250mlのメスフラスコに移し、次に4.2.1.C.dの「30℃のクエン酸液150mlを加え」以下に従って試料液を作成する。この浸出液中のマグネシウム(苦土)の量と水溶性マグネシウム(苦土)の量を合計してク溶性マグネシウム(苦土)の量とする。
3.マンガンが特に多くマスキングでは完全に影響を除けない場合には、あらかじめ4.5.1.1.Dによりマンガンを除く必要がある。
D 定量
a クエン酸を含有しない場合
 試料液の一定量(Mgとして6~30mgまたはMgOとして10~50mgがよい)を250mlのメスフラスコに正確にとり、塩化アンモニウム約1g及び水を加えて約150mlとし、メチルレッドを指示薬として希アンモニア水及び希塩酸で溶液の色が淡桃色(pH約5)となるように中和し、加熱して振り混ぜながらシュウ酸アンモニウム液約20mlを加える(この際淡桃色が変化するので希塩酸及び希アンモニア水で再びpHを調整する)。次に水浴上で1時間加熱したのち室温まで放冷し(必要があれば更にメチルレットを加えてpHを調整する)、標線まで水を加えて細密な乾燥ろ紙でろ過する。このろ液25~100mlを三角フラスコに正確にとり、50ml未満のときは水を加えて約50mlとし、アスコルビン酸約0.1g(または10%過酸化水素水2~5ml)、トリエタノールアミン(1+3)1~10ml、シアン化カリウム液1~10ml(マンガンが存在するときはシアン化カリウム1~5gを加える)及び2-アミノエタノール緩衝液(あるいは滴定液にあらかじめ2%クエン酸液約5mlを加えておき塩化アンモニウム緩衝液)約20mlを加え、更に指示薬としてエリオクロムブラックT数滴を加え、標準エチレンジアミン四酢酸塩液で滴定してマグネシウム(Mg)または酸化マグネシウム(苦土)(MgO)の量を算出する。
    0.01Mエチレンジアミン四酢酸塩液1ml=0.2435mgMg=0.4030mgMgO
 なお前記のろ液の一定量にマスキング剤を加えたのち、標準エチレンジアミン四酢酸塩液の過剰の一定量を正確に加え、更に緩衝液及び指示薬を加えて標準マグネシウム液で逆滴定してもよい。
b クエン酸を含有する場合
 試料液100mlを250mlのメスフラスコに正確にとり、塩化アンモニウム約1g及び水を加えて約150mlとし、メチルレッドを指示薬として希アンモニア水及び希塩酸で溶液が淡桃色(pH約5)となるように中和し、加熱して振り混ぜながらシュウ酸アンモニウム液20~50mlを加え、以下前記aによりカルシウムを除去したのちそのろ液25mlを三角フラスコに正確にとり、水を加えて約50mlとしたのち、前記の「アスコルビン酸約0.1g」以下により(ただしクエン酸液は添加しない)マグネシウム(苦土)を定量する。
(付記)
 滴定終了後の廃液の処理については、4.5.2.2.D.(付記)による。

4.6.2 原子吸光測光法

A 適用範囲
 マグネシウムは原子吸光測光法の感度が高く、最も測定しやすい元素の一つであり、測定誤差も比較的小さい。
B 装置
 原子吸光分析装置 マグネシウム中空陰極ランプ。
C 試薬液の調製
1)標準マグネシウム液
 特級マグネシウム(Mg)1gを1000mlのメスフラスコにとり、塩酸10mlを静かに加えて溶かし、放冷後標線まで水を加えて標準マグネシウム原液を作成する(この液1mlはMgとして1mgを含有する)。使用に際してこの原液の一定量を水で正確に10倍に希釈する(この液1mlはMgとして100μgを含有する)。
 なお標準マグネシウム液として特級マグネシウム(Mg)0.6030gを同様に塩酸に溶かして正確に水で1000mlとした液を原液とし(この液1mlはMgOとして1mgを含有する)、この液を使用に際して水で正確に10倍に希釈してもよい(この液1mlはMgOとして100μgを含有する)。
2)干渉抑制剤液
D 試料液の調製
 4.6.1.Cによる。
E 定量
 試料液の一定量(Mgとして50~500μg、またはMgOとして80~800μgがよい)を100mlのメスフラスコに正確にとり、干渉抑制剤液10mlを添加したのち標線まで水を加え、原子吸光分析装置により波長285.2nmの吸光度を測定する。同時に標準マグネシウム液を数段階に正確にとり、試料液の場合と同一濃度になるように干渉抑制剤液をそれぞれ添加し同一条件で測光して作成した検量線からマグネシウム(Mg)または酸化マグネシウム(苦土)(MgO)の量を求める。

4.7 マンガン

4.7.1 ビスマス酸ナトリウム法

A 適用範囲
 マンガン含有量の比較的高い肥料(Mnとしておおよそ1%以上)に適する。
B 試薬液の調製
1)標準過マンガン酸カリウム液
2)標準硫酸鉄(Ⅱ)アンモニウム液
 硫酸鉄(Ⅱ)アンモニウム〔FeSO・(NHSO・6HO〕の0.1M溶液を作成し〔硫酸鉄(Ⅱ)アンモニウム39.3gを適量の水に溶かし、硫酸(1+1)100mlを加えて1000mlとする〕着色瓶に貯蔵する。
3)クエン酸液
C 試料液の調製
a マンガン全量
 分析試料1~2.5gをビーカーに正確にとり水で潤してから、時計皿で覆い塩酸約20mlを加えて加熱分解したのち、硝酸約5mlを加え徐々に加熱して完全に分解し、更に硫酸(1+1)10mlを加えて蒸発し、硫酸の白煙が発生し始めてから更に約10分間加熱を続け、少時放冷後ビーカーの内壁を少量の水で洗浄し、再び蒸発して硫酸の白煙が発生してから約10分間加熱を続ける。放冷後水約50mlを加えて加熱して溶かし、ろ過して熱水で十分に洗浄しろ液は250mlのメスフラスコに受ける。この不溶解物になおマンガンを含有するときには、ろ紙とともに白金るつぼに移し、強熱、灰化後、不溶解物の約6倍量の無水炭酸ナトリウム(または無水炭酸ナトリウムと無水炭酸カリウムとの等量混合物)を加え混合して融解し、冷却後温水を用いてるつぼからビーカーに洗い移し、硝酸(1+1)を加えて酸性として溶かし、さきの主溶液に合し標線まで水を加える。
b 水溶性マンガン
c 可溶性(0.5M塩酸可溶性)マンガン
d ク溶性(クエン酸可溶性)マンガン
D 定量
a マンガン全量
 試料液の一定量(Mnとして4~40mg、またはMnOとして5~50mgがよい)をトールビーカーに正確にとり、水を加えて約100mlとし、これに硝酸15mlを加えたのち、ビスマス酸ナトリウムをごく少量添加してかき混ぜ1~2分間軽く煮沸する。この際過マンガン酸の赤紫色若しくは二酸化マンガンの沈殿が消失したならば、少時冷却後更にビスマス酸ナトリウムを少量添加して軽く煮沸する。次に30%過酸化水素水1~2滴を滴下して着色若しくは沈殿を消失させ再び煮沸する。冷却後マンガン量に応じてビスマス酸ナトリウム0.5~1.5gを一度に加えよくかき混ぜて静置したのち、漏斗型ガラスろ過器(11G4)でろ過し硝酸(1+30)で洗浄する。ろ液は水約150mlを加えて希釈し、これに標準硫酸鉄(Ⅱ)アンモニウム液25~50mlを正確に加えて過マンガン酸の赤紫色を消失させ、標準過マンガン酸カリウム液で滴定する。同時に同一量の標準硫酸鉄(Ⅱ)アンモニウム液について空試験を行い、両滴定値の差よりマンガン(MnまたはMnO)の量を算出する。
 0.1M(1/5過マンガン酸カリウム液)1ml=1.099mgMn=1.419mgMnO
b 水溶性マンガン、可溶性(0.5M塩酸可溶性)マンガン及びク溶性(クエン酸可溶性)マンガン
 試料液の一定量(Mnとして4~40mg、またはMnOとして5~50mgがよい)をトールビーカーに正確にとり、硫酸5ml及び硝酸約30mlを加え加熱・蒸発し硫酸の白煙が発生するに至ったのち、更に少量の硝酸を滴下して加熱を続け有機物を完全に分解する。放冷後温水50mlを加えよくかき混ぜたのち、不溶解物をろ別し熱水で洗浄する。ろ液はビーカーに受け約100mlに濃縮し、次に前記aの「これに硝酸15mlを加えたのち」以下に従って操作しマンガン(MnまたはMnO)の量を求める。
(付記)
 試料液中に塩化物や有機物が存在しないときは、硫酸及び硝酸による分解操作を省略してよい。

4.7.2 過ヨウ素酸カリウム法

A 適用範囲
 マンガンを含有する試料に適用する。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準マンガン液
 特級過マンガン酸カリウム(KMnO)0.2877gを水約100mlに溶かし、硫酸(1+1)1mlを加え、次に亜硫酸水または3%過酸化水素水を過マンガン酸の色が消えるまで加えて煮沸し、冷却後水を加えて正確に1000mlとする。
 あるいは電解金属マンガン(Mn)0.1gをビーカーに正確にとり、硫酸(1+3)10mlを加えて加熱して溶かし、冷却後水を加えて正確に1000mlとする(これらの液1mlはMnとして100μgを含有する)。
2)三混酸
 硝酸500mlに過塩素酸200ml及び硫酸100mlを順次加える。
3)硫酸-リン酸液
 水約500mlにリン酸100ml及び硫酸250mlを順次加え、冷却後水を加えて1000mlとする。
4)クエン酸
D 試料液の調製
 4.7.1.Cによる。
E 定量
a マンガン全量
 ろ液の一定量(Mnとして1~10mgがよい)を小型ビーカーに正確にとり、硫酸-リン酸液20ml及び水を加えて約80mlとし、時計皿で覆い加熱する。沸点近くに達したならば熱板上より降ろし、過ヨウ素酸カリウム(KIO)約0.3gを加え、水浴上で約30分間加熱する。放冷後水で100~250mlのメスフラスコに移し、標線まで水を加える。別に標準マンガン液の一定量を数段階に小型ビーカーに正確にとり、同様に操作して発色させたのち正確に100mlとする。次に試料液のマンガン濃度よりも0.5~1.5mgMn/100mlだけ低い濃度の発色標準マンガン液を対照液として試料液及び対照液よりも高い濃度の発色標準マンガン液の吸光度(0.2~0.7の範囲がよい)を波長526nm付近で測定し、試料液中のマンガン(Mn)の量を求め、またはこれよりマンガン(MnO)の量を算出する。
 マンガン(MnO)=マンガン(Mn)×1.2912
b 水溶性マンガン、可溶性(0.5M塩酸可溶性)マンガン及びク溶性(クエン酸可溶性)マンガン
 試料液の一定量(Mnとして5~50mgがよい)をトールビーカーに正確にとり、硫酸5ml及び硝酸約30ml、あるいは三混酸10~20mlを加えて加熱し、硫酸あるいは過塩素酸の白煙が発生するようになったならば時計皿で覆い更に約10分間加熱する。なお、有機物などの分解が不完全なときは、少時冷却したのち少量の硝酸を滴下して加熱を続け完全に分解する。この際マンガンが酸化されて赤紫色を呈するときは、分解後3%過酸化水素水1~2滴及び少量の水を加えて煮沸し赤紫色を消失させる。放冷後水約50mlを加え煮沸して溶かし、冷却後水を加えて正確に250mlとし乾燥ろ紙でろ過する。このろ液の一定量(Mnとして1~10mgがよい)を小型ビーカーに正確にとり、次に前記aの「硫酸-リン酸液約20ml」以下により操作してマンガン(Mn)の量を求める。
(付記)
 試料液中に有機物または多量の塩化物が存在しないときは、硫酸及び硝酸、あるいは三混酸による分解操作を省略してよい。

4.7.3 原子吸光測光法

A 適用範囲
 マンガンを含有する肥料及びリン鉱石を対象とする。
B 装置
 原子吸光分析装置 マンガン中空陰極ランプ。
C 試薬液の調製
1)標準マンガン液
2)干渉抑制剤液
3)クエン酸液
D 試料液の調製
a マンガン全量
(付記)
 リン鉱石の場合は5.1.1.D.a.1)によってもよい。
b 水溶性マンガン
c 可溶性(0.5M塩酸可溶性)マンガン
d ク溶性(クエン酸可溶性)マンガン
E 定量
 試料液の一定量(Mnとして50~1000μgがよい)を100mlのメスフラスコに正確にとり、干渉抑制剤液10ml及び水を標線まで加え、原子吸光分析装置により279.5nmの吸光度を測定する。同時に標準マンガン液の一定量を数段階に100mlのメスフラスコに正確にとり、試料液の場合と同様に操作して作成した検量線からマンガン(Mn)の量を求め、またはこれよりマンガン(MnO)の量を算出する。
  マンガン(MnO)=マンガン(Mn)×1.2912

4.8 ホウ素

4.8.1 マンニトール法

A 適用範囲
 ホウ素含有量の高い試料に適し、特にホウ酸、ホウ酸ナトリウムなどの分析に好適である。ホウ素入り複合肥料ではリンなどの妨害物質の除去操作が煩雑であり、また含有量も低いことから、本法の適用は困難が多く、4.8.2または4.8.3を適用するのがよい。
B 試薬液の調製
1)標準ホウ酸液
 特級ホウ酸(HBO)(硫酸デシケーター中で24時間以上乾燥したもの)6.183gを水に溶かして正確に1000mlとし0.1M溶液を作成する。
2)標準水酸化ナトリウム液
 4.1.1.1.B.1)により0.1Mまたは0.03M溶液を作成する。ただしその濃度は次記D.aの定量法により標準ホウ酸液を滴定して標定する(試料液のホウ素含有量の多少により0.1Mまたは0.03M溶液を作成する)。
3)クエン酸液
4)塩化バリウム液
5)水酸化ナトリウム液
 水酸化ナトリウム100gを水に溶かして1000mlとする。
6)炭酸ナトリウム液
 無水炭酸ナトリウム50gを水に溶かして1000mlとする。
7)指示薬
i)メチルレッド
ii)フェノールフタレイン
C 試料液の調製
a 水溶性ホウ素
1)ホウ酸・ホウ酸塩
 分析試料1gをトールビーカーに正確にとり、水約200mlを加えて時計皿で覆い15分間煮沸して溶かし、冷却後水を加えて正確に250mlとし乾燥ろ紙でろ過する。
2)塩化カリウム(加里)
 分析試料5~10gをビーカーに正確にとり、水50~75mlを加えて(分析試料中に炭酸塩が存在する場合にはやや過剰の塩酸を加える)時計皿で覆い15分間煮沸して溶かす。
3)複合肥料
 分析試料2.5gを軟質ガラス製またはポリ四フッ化エチレン製トールビーカーに正確にとり、水約200mlを加えて時計皿で覆い15分間煮沸して溶かし、冷却後水を加えて正確に250mlとし乾燥ろ紙でろ過する。
b ク溶性(クエン酸可溶性)ホウ素
 分析試料1gを三角フラスコに正確にとり、水25mlを加えてよく混合し更に塩酸25mlを加えたのち、還流冷却器を付けて15分間煮沸し、冷却後水を加えて正確に250mlとし乾燥ろ紙でろ過する(このろ液を第1液とする)。
 別に分析試料1gを三角フラスコに正確にとり、30℃のクエン酸液150mlを加え1分間30~40回回転の振り混ぜ機で1時間振り混ぜたのち(浸出中は30℃に保つこと)、ろ過して水で十分洗浄する。ろ紙上の不溶解物は温塩酸(1+1)50ml及び少量の水で元の三角フラスコに洗い込み、還流冷却器を付けて15分間煮沸し、冷却後水を加えて正確に250mlとし乾燥ろ紙でろ過する(このろ液を第2液とする)。
D 定量
a 水溶性ホウ素
 試料液の一定量〔Bとして3~30mg、またはBとして10~100mgであって、塩化カリウム(加里)では試料液全量を用い、複合肥料では100mlをとる〕をビーカーに正確にとり、メチルレッドを指示薬として塩酸を加えて酸性とし煮沸する。次に硫酸及びリン酸をことごとく沈殿させるのに足りる塩化バリウム液を加え、更に加熱したのちフェノールフタレインを指示薬として水酸化ナトリウム液を加えて弱アルカリ性とし、加熱後ろ過して(沈殿がコロイド状でろ過の困難なときは5種Aろ紙を用いる)熱水で十分洗浄する。ろ液は約100mlに濃縮し、塩酸で微酸性としたのち炭酸ナトリウム液を加えて弱アルカリ性とし、加熱後ろ過して熱水で洗浄する。次に塩酸で中性にし更に0.1M塩酸数mlに相当する量を過剰に加え約5分間煮沸して二酸化炭素をことごとく駆逐したのち、冷水中で冷却し指示薬としてメチルレッド1~2滴を加え、溶液が淡紅色から黄色に変わるまで標準水酸化ナトリウム液で正確に中和する(この際中和点を超えた場合には、0.1M塩酸数滴を加えて淡紅色にしたのち、標準水酸化ナトリウム液を加えて再び正確に中和する)。この中和した液に中性のマンニトール1~2g及び指示薬としてフェノールフタレイン数滴を加え、溶液が淡紅色を呈するまで標準水酸化ナトリウム液で滴定する。次に溶液に少量のマンニトールを追加しもし紅色が消失するときは、標準水酸化ナトリウム液で更に滴定して淡紅色にする。このようにしてマンニトールを加えても終点に影響を及ぼさなくなるまでこの操作を反復する(試料液のホウ素含有量が少ないときはマンニトールの添加は通常1回で十分である)。マンニトール添加後の滴定に要した標準水酸化ナトリウム液の量からホウ素(BまたはB)の量を算出する。なおこの際空試験を行い結果を補正することが必要である。
 標準水酸化ナトリウム液1ml=同液の濃度(M)×10.81mgB=同液の濃度(M)×34.81mgB
(付記)
 試料液中にリン、鉄、アルミニウムが存在しないときは、前記の定量法中のこれらの除去操作は不要である。
b ク溶性(クエン酸可溶性)ホウ素
 試料液の第1液及び第2液のそれぞれ50mlを別々のビーカーに正確にとり、煮沸して硫酸・リン酸液が共存するときは塩化バリウム液を加えて沈殿させたのち、フェノールフタレインを指示薬として水酸化ナトリウム液を加えて弱アルカリ性とし、加熱後ろ過して熱水で十分洗浄する。各ろ液は塩酸で微酸性にしたのち、炭酸ナトリウム液を加えて弱アルカリ性とし加熱後ろ過して熱水で洗浄する。更にメチルレッドを指示薬として希塩酸を加えて中性にし約50mlに濃縮する。この際沈殿が生じたならば、再びろ過・洗浄・濃縮する。次に前項aの「0.1M塩酸数mlに相当する量を過剰に加え」以下により滴定する。第1液及び第2液の各滴定値の差からホウ素(BまたはB)の量を算出する。

4.8.2 クルクミン法

A 適用範囲
 本法は感度が高いことから微量のホウ素の定量に好適である。ただし妨害となる物質が多いので有機溶媒抽出法によりこれらをあらかじめ除去しておく必要がある。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準ホウ素液
 特級ホウ酸(HBO)(硫酸デシケーター中で24時間以上乾燥したもの)5.720gを水に溶かして正確に1000mlとし標準ホウ素原液を作成する(この液1mlはBとして1mgを含有する)。この原液の一定量を水で正確に1000倍に希釈してポリエチレン瓶に貯蔵する(この液1mlはBとして1μgを含有する)。
 なおホウ酸4.441gを水に溶かして正確に1000mlとした液を原液とし(この液1mlはBとして2.5mgを含有する)、この液を水で正確に1000倍に希釈してもよい(この液1mlはBとして2.5μgを含有する)。
2)クルクミン液
 クルクミン(天然)0.2gをポリエチレンビーカーにとり、酢酸100mlを加え40~50℃に加温して溶かしポリエチレン製容器に貯蔵する。
3)2-エチル-1,3-ヘキサンジオール液
 2-エチル-1,3-ヘキサンジオール100mlをクロロホルムに溶かして1000mlとする。
4)クエン酸液
D 試料液の調製
a 水溶性ホウ素
b ク溶性(クエン酸可溶性)ホウ素
E 定量
 試料液の一定量(Bとして1.5~30μg、またはBとして5~100μgがよく、液量10ml以下)を小型分液漏斗に正確にとり、塩酸(1+3)10mlを加え、不足する場合には水を加えて約20mlとする。これに2-エチル-1,3-ヘキサンジオール液20mlを正確に加え約1分間激しく振り混ぜて静置後、下層の有機相を分離する。この液の1mlを小型の軟質ガラス製(またはポリエチレン製)ビーカーに正確にとり、クルクミン液1mlと硫酸0.3mlを加え、約15分間放置する。その後95%アルコールで50mlのメスフラスコに移し、標線まで更に95%アルコールを加え、空試験の液を対照液として波長550nm付近の吸光度を測定する。同時に標準ホウ素液を数段階に正確にとり、試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線からホウ素(BまたはB)の量を求める。
   ホウ素(B)=ホウ素(B)×3.2199
   ホウ素(B)=ホウ素(B)×0.3106

4.8.3 アゾメチンH法

A 適用範囲
 本法は感度については4.8.2にやや劣るが共存物質の影響が少なく広範囲の試料に適用できる。吸光度の経時変化があることに留意が必要である。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準ホウ素液
 4.8.2.C.1)により作成した標準ホウ素原液を水で正確に100倍に希釈してポリエチレン瓶に貯蔵する(この液1mlはBとして10μgを含有する)。あるいは1mlにBとして25μgを含有する液を作成してもよい。
2)アゾメチンH液
 アゾメチンH〔C・OH・CHN・C10・OH・(SOH)〕0.6g及びアスコルビン酸2gに水を加え35~40℃に加温して溶かし、冷却後水を加えて100mlとする。この液は使用の直前に作成する。
3)酢酸アンモニウム液
 酢酸アンモニウム250gを水に溶かして500mlとし、これに硫酸(1+4)約80mlを加えpH5.2に調整する。
4)エチレンジアミン四酢酸塩液
 エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(Na1012N・2HO)37.2gを水に溶かして1000mlとする。
(付記)
 アゾメチンHが入手できない場合には次のようにして合成する。1-アミノ-8-ナフトール-3,6-ジスルホン酸一ナトリウム(H酸)18gに水約1000mlを加え加熱して溶かす(不溶解物はろ別する)。この液に10%水酸化カリウム液を加えてpH7としたのち、かき混ぜながら塩酸を滴下してpH1.5とする。この液を約60℃に加熱し、激しくかき混ぜながら、サリチルアルデヒド20mlを徐々に加え、60℃以上に保ちながら1時間以上激しくかき混ぜる。放冷後、冷所に一夜間静置してアゾメチンH(赤黄色)を沈殿させる。大型ブフナー漏斗でろ過し、アルコールで5回洗浄し100℃で3時間乾燥したのち、軽く粉砕後デシケーター中で保存する。
D 試料液の調製
 4.8.2.Dによる。
E 定量
 試料液の一定量(Bとして10~200μgまたはBとして30~600μgがよい)を100mlのメスフラスコに正確にとり、エチレンジアミン四酢酸塩液25mlを加え〔このとき必要があればpH計を用いて塩酸(1+3)または2%水酸化ナトリウム液で中和しpH5.0とする〕、酢酸アンモニウム液10ml、アゾメチンH液10mlを順次加え、標線まで水を加えて振り混ぜる。室温で2時間放置したのち、空試験の液を対照液として波長415nm付近の吸光度を測定する。同時に標準ホウ素液を数段階に正確にとり、試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線からホウ素(BまたはB)の量を求める。
   ホウ素(B)=ホウ素(B)×3.2199
   ホウ素(B)=ホウ素(B)×0.3106
(付記)
1.この方法で共存物質の影響がみられる場合には、試料液の一定量(10ml以下をとり、Bとして10~200μgまたはBとして30~600μgがよい)を小型分液漏斗に正確にとり、4.8.2.Eの「塩酸(1+3)10mlを加え」以下によって溶媒抽出を行い、得られた有機相に2%水酸化ナトリウム液20mlを加え激しく振り混ぜて静置し、水相を100mlのメスフラスコに移す。この液にフェノールフタレインを指示薬として加え、塩酸(1+3)で中和したのち、上記Eの「酢酸アンモニウム液10ml」以下により操作してホウ素(BまたはB)の量を求める。なおこの場合には4.8.2.C.3)の2-エチル-1,3-ヘキサンジオール液の作成の際のクロロホルムの代わりに4-メチル-2-ペンタノン(イソブチルメチルケトン)を使うのが操作上便利である。
2.ク溶性ホウ素を定量する場合には、試料液中と同量のクエン酸を標準液に加える必要がある。

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