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5.その他の成分

5.1 亜鉛

5.1.1 ジチゾン法

A 適用範囲
 亜鉛を含有する肥料に適用される。本法は極めて感度が高く、また妨害となる物質も多いことから、用いる試薬や容器などからの不用意な汚染に十分に留意する必要がある。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準亜鉛液
 標準試薬亜鉛(Zn)〔塩酸(1+3)、水、アセトンで順次洗い、直ちに無水塩化カルシウムデシケーターまたは硫酸デシケーター中で24時間以上乾燥したもの〕1gを1000mlのメスフラスコに正確にとり、塩酸10mlを加えて溶かし、放冷後標線まで水を加えて標準亜鉛原液を作成する(この液1mlはZnとして1mgを含有する)。使用に際してこの原液の一定量を水で正確に1000倍に希釈する(この液1mlはZnとして1μgを含有する)。
2)ジチゾン液
 ジチゾン(ジフェニルチオカルバゾン)〔CS(NH)(C〕50mgを小型分液漏斗にとり、四塩化炭素約100mlを加え、数分間よく振り混ぜたのち乾燥ろ紙でろ過する。ろ液は大型分液漏斗に受け、0.02Mアンモニア水約400mlを加え、数分間激しく振り混ぜたのち静置して四塩化炭素相を捨てる。次に四塩化炭素約20mlを加え、少時激しく振り混ぜたのち静置して四塩化炭素相を捨てる。更にこの操作を2回反復したのち水相に四塩化炭素100ml及び1M塩酸9mlを加え、数分間激しく振り混ぜたのち静置して四塩化炭素相を分離し、これを四塩化炭素で4倍に希釈して着色瓶に入れ冷暗所に貯蔵する。
3)酢酸ナトリウム緩衝液
 酢酸ナトリウム(NaCH・CO・3HO)136g及び酢酸57mlを水に溶かして1000mlとし、混在する不純物をジチゾン液少量で抽出して除去したのち乾燥ろ紙でろ過する。
4)チオ硫酸ナトリウム液
 チオ硫酸ナトリウム(Na・5HO)25gを水に溶かして100mlとする。
5)過塩素酸-硝酸液
 過塩素酸200mlを硝酸800mlに加える。
D 試料液の調製
a 亜鉛全量
1)無機質肥料及びリン鉱石
 分析試料1~2.5gをトールビーカーに正確にとり、塩酸30ml及び硝酸10mlを加え、時計皿で覆い熱板上で約30分間煮沸したのち、時計皿を除き水浴上で蒸発乾固し更に少量の塩酸を加えて再び蒸発乾固する。放冷後温塩酸(1+5)約25mlを加え少時加熱して溶かし、冷却後水を加えて正確に100mlとし直ちに乾燥ろ紙でろ過する。
2)有機物を含有する肥料
 分析試料2~5gをトールビーカーに正確にとり、硝酸約30mlを加え時計皿で覆い徐々に加熱する(泡の発生が激しい場合には放冷し一夜間放置するとよい)。激しい反応が終わったならば時計皿をずらして蒸発を続けシラップ状にする。時計皿の下部及びビーカーの内壁を少量の水で洗い、これに過塩素酸-硝酸液30~50mlを加え再び加熱し、過塩素酸の白煙が発生するようになったならば時計皿で覆い更に約10分間加熱を続け放冷する。この際なお有機物の分解が不完全な場合には、しばらく放冷したのち硝酸少量を追加し加熱、分解を繰り返す。次に前記1)の「温塩酸(1+5)約25mlを加え」以下に従って試料液を作成する。
(付記)
1.主として有機物よりなる試料の場合には次のようにしてもよい。
 分析試料2~10gを磁製蒸発皿にとり、初め熱板上で加熱して炭化させ、次いで約250℃の電気炉に入れ1時間約50℃前後の昇温速度で加熱し約450℃で灰化させる。放冷後硝酸約5mlを加え熱板上で加熱して分解し、更に加熱を続けて酸をほとんど蒸発させ放冷する。次に前記1)の「温塩酸(1+5)約25mlを加え」以下に従い試料液を作成する。
2.前記2)の過塩素酸を用いた分解法による場合は危険防止に細心の注意を要する。特に脂肪などが多くて分解し難い試料では上記(付記)1.によるのがよい。
b 水溶性亜鉛
 分析試料5g(あるいは液状肥料の場合には約5mlの重さを量る)を500mlのメスフラスコに正確にとり、水約400mlを加えてよく溶かし更に標線まで水を加え、必要があれば乾燥ろ紙でろ過する。
(付記)
 作成した試料液にエチレンジアミン四酢酸塩を含有し定量の妨げとなる場合には、あらかじめろ液の一定量を正確にとり、少量の硫酸及び硝酸で分解したのち水酸化ナトリウム液で中和した液を供試し、また作成した試料液に亜硝酸塩を含有する場合には、あらかじめろ液の一定量を正確にとり、硝酸酸性で煮沸したのち供試する。
E 定量
 試料液の一定量(Znとして1~12μgがよい)を小型分液漏斗に正確にとり、0.1M塩酸4ml及び水を加えて20mlとする。次に酢酸ナトリウム緩衝液20ml及びチオ硫酸ナトリウム液5mlを加えて混合し、更にジチゾン液10mlを正確に加えて3~4分間激しく振り混ぜる。静置後四塩化炭素相を分離し、この液5mlを25mlのメスフラスコに正確にとり、標線まで四塩化炭素を加える。約2時間後同時に操作して得られた空試験の液を対照液として波長530nm付近の吸光度を測定する。同時に標準亜鉛液を数段階に正確にとり、試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線から亜鉛(Zn)の量を求める。

5.1.2 原子吸光測光法

A 適用範囲
 本法は感度が高く多くの試料に広く適用される。ただし亜鉛が特に微量の場合にはバックグラウンド吸収などに基づく誤差が大きくなることがある。
B 装置
 原子吸光分析装置 亜鉛中空陰極ランプ。
C 試薬液の調製
1)標準亜鉛液
 5.1.1.C.1)により作成した標準亜鉛液の一定量を使用に際して水で正確に100倍に希釈する(この液1mlはZnとして10μgを含有する)。
D 定量
a 亜鉛全量
1)無機質肥料及びリン鉱石
2)有機物を含有する肥料
 次記のいずれかの方法による。
i)分析試料2~5gをトールビーカーに正確にとり、塩酸15ml及び硝酸5mlを加え時計皿で覆い熱板上で徐々に加熱する。(泡の発生が激しい場合には熱板から降ろししばらく放冷する。)激しい反応が終わったならば時計皿をずらして蒸発を続けほとんど乾固するに至らせる。再び塩酸15ml及び硝酸5mlをビーカーの内壁を洗い落としながら加え加熱・分解を繰り返す。次に塩酸(1+5)25mlを加え、しばらく加熱して溶かし、冷却後水で100mlのメスフラスコに移し、標線まで水を加えて直ちに乾燥ろ紙でろ過する。
ii)分析試料0.5~1gをポリ四フッ化エチレン製密閉耐圧分解用容器(容積70ml前後、許容限界圧力80気圧以上)に正確にとり、硝酸5mlのうちの約1/2を加えて細いガラス棒でよく混合し、残りの硝酸でガラス棒を洗い落とす。(泡の発生が激しいときにはしばらくドラフト内に放置する。)ポリ四フッ化エチレン製のふたをしてからステンレス鋼製の密閉容器に入れて密閉し、あらかじめ120~130℃にしてある定温器内に置き60分間加熱する。放冷後、容器内の圧力が下がってからふたを開け、内壁を水で洗い落として50mlのメスフラスコに移し、標線まで水を加えて直ちに乾燥ろ紙でろ過する。
(付記)
1.上記i)ii)の方法では有機物の分解は完全には行えないが、下水汚泥など多くの試料では、この分解液を直接原子吸光測光法に用いて定量することができる。ただし、分解が不完全で測定する元素の浸出が不完全な場合、あるいは有機溶媒抽出を行う場合には、5.1.1.D.a.2)または同(付記)1.による必要がある。
2.前記ii)による方法では、試料、硝酸の量を規定以上に増加させたり、加熱温度を規定以上に上げると、容器内の圧力が過大となり、容器の破損などの危険があるので、設定条件を厳守する必要がある。
b 水溶性亜鉛
E 定量
 試料液の一定量(Znとして50~500μgがよい)を100mlのメスフラスコに正確にとり、5M塩酸10mlを加え更に標線まで水を加え、原子吸光分析装置により波長213.9nmの吸光度を測定する。同時に標準亜鉛液を数段階に正確にとり、試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線から亜鉛(Zn)の量を求める。
 全操作にわたって空試験を行い、結果を補正する。
(付記)
 本法においては、標準液と試料液の塩酸濃度は一定にすることが必要である。ここでは0.5Mとなるようにしてあるが、必要によって更に高くして1Mとしてもよい。また5.1.2.D.a.2).ii)によった場合には試料液中では硝酸が残留しているから、標準液中でも希釈の程度によってその濃度に合わす必要がある。

5.2 亜硝酸

5.2.1 スルファニルアミド-ナフチルエチレンジアミン法

A 適用範囲
 硝酸塩を含有し、または原料に使用した肥料などで亜硝酸塩を含有しているものを対象とする。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準亜硝酸ナトリウム液
 特級亜硝酸ナトリウム(NaNO)0.74gを水に溶かして1000mlとし、標準亜硝酸ナトリウム原液を作成し、この液をビュレットに移し、別に標準過マンガン酸カリウム液5mlをビーカーに正確にとり、水約70ml及び硫酸(1+5)約15mlを加えて40℃に加温し、ビュレットの先端をこの液面下に浸しかき混ぜながら試料液で滴定し、脱色する点を終点として(終点付近においては滴定を徐々にすること)その濃度を標定して標準亜硝酸原液とし、冷暗所に貯蔵する〔0.1M(1/5過マンガン酸カリウム)液1mlは2.351mgのHNOに相当する〕。使用に際してこの原液の一定量を水で正確に50~500倍の数段階に希釈する(この液1mlはHNOとして約10~1μgを含有する)。
2)標準過マンガン酸カリウム液
3)スルファニルアミド液
 スルファニルアミド(NH・SO・C・NH)0.2gを温水に溶かして冷却後100mlとする。
4)1-ナフチルエチレンジアミン液
 1-ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩〔C10・NH・(CH・NH・2HCl〕0.1gを水に溶かして100mlとし着色瓶に貯蔵する。
5)硫酸アルミニウム液
 硫酸アルミニウム〔Al(SO・18HO〕3gを水に溶かして1000mlとする。
D 試料液の調製
 分析試料1gを三角フラスコに正確にとり、硫酸アルミニウム液200mlを正確に加え1分間30~40回回転の振り混ぜ機で20分間振り混ぜ、更に水酸化カルシウム約1gを加えて10分間振り混ぜたのち乾燥ろ紙でろ過する。ろ液が着色するときは活性炭少量を加えて再び乾燥ろ紙でろ過する。
E 定量
 作成直後の試料液の5ml(HNOとして2~50μgがよい)を50mlのメスフラスコに正確にとり、塩酸(1+1)1ml及びスルファニルアミド液5mlを加えて約5分間放置する。次いで1-ナフチルエチレンジアミン液1mlを加え約10分間放置したのち標線まで水を加え、空試験の液を対照液として波長530nm付近の吸光度を測定する。別に標準亜硝酸液を数段階に正確にとり、試料液の場合と同時に操作して作成した検量線から亜硝酸(HNO)の量を求める。

5.3 亜硫酸

5.3.1 ヨウ素法

A 適用範囲
 リグニン苦土(マグネシウム)肥料を対象とする。
B 試薬液の調製
1)標準二クロム酸カリウム液
 標準試薬二クロム酸カリウム(KCr)(めのう乳鉢を用いて粉末とし、100~110℃に3~4時間保ったのち硫酸デシケーター中で放冷したもの)1.4709gを水に溶かして正確に1000mlとし、0.03M(1/6KCr)溶液を作成する。
2)標準チオ硫酸ナトリウム液
 特級チオ硫酸ナトリウム(Na・5HO)7.45gを一度煮沸して二酸化炭素を駆逐したのち冷却した水に溶かして1000mlとし、0.03M溶液を作成して共栓着色瓶に貯蔵する。使用に際して次の方法によりその濃度を標定する。
 標準二クロム酸カリウム液25mlを三角フラスコに正確にとり、ヨウ化カリウム液30ml及び硫酸(1+5)5mlを加えて混合する。遊離したヨウ素を5分後チオ硫酸ナトリウム液で滴定し、遊離ヨウ素の褐色が薄くなり淡緑色を呈したとき、指示薬としてデンプン液1mlを添加して更に滴定を続け、ヨウ化デンプンの青色が消失する点を終点としてチオ硫酸ナトリウム液を標定する。
3)標準ヨウ素液
 特級ヨウ素(I)3.81gを1000mlのメスフラスコにとり、これにヨウ化カリウム約10gを水約150mlに溶かしたものを加えてヨウ素をよく溶かし、更に標線まで水を加えて0.03M溶液を作成し共栓着色瓶に貯蔵する。使用に際して次の方法によりその濃度を標定する。
 標準チオ硫酸ナトリウム液25mlを三角フラスコに正確にとり、指示薬としてデンプン液1mlを加えてヨウ素液で滴定し、淡青色の発現をもって終点とし同液を標定する。
4)ヨウ化カリウム液
 ヨウ化カリウム(KI)50gを水に溶かして1000mlとする。
5)指示薬
 デンプン液
 デンプン0.5gをビーカーにとり、少量の水で練ったのち沸騰水約100mlを加えて時計皿で覆い数分間煮沸して放冷する。この液を保存するには少量のトルエンまたは二硫化炭素を添加して冷所に貯蔵するとよい。
C 試料液の調製
 分析試料5gを100mlのメスフラスコに正確にとり、水約80mlを加え、1分間30~40回回転の振り混ぜ機で15分間振り混ぜたのち、標線まで水を加えて直ちに乾燥ろ紙でろ過する。
D 定量
 作成直後の試料液10mlを三角フラスコに正確にとり、氷で冷却した水で約200mlに希釈し、指示薬としてデンプン液3mlを加え直ちに標準ヨウ素液で滴定し、明褐色が最初に暗褐色に変わる点を終点として(滴定しない対照液と対比しつつ判定するとよい)亜硫酸(HSO)の量を算出する。
    0.03M(1/2ヨウ素)液1ml=1.231mgHSO

5.4 塩酸不溶解物(土砂)

5.4.1 塩酸法

A 適用範囲
 主として有機質肥料中に混入している土砂量を対象とする。
B 定量
 分析試料5~10gを白金皿に正確にとり、低赤熱で灰化し、水でトールビーカーに移して塩酸25mlを加え、更に水で約100mlに希釈し、時計皿で覆い30分間煮沸しろ過して熱水で洗浄する。この不溶解物を乾燥・強熱したのち重さを正確に量って塩酸不溶解物(土砂)の量とする。

5.5塩素

5.5.1 硝酸銀法

A 適用範囲
 塩素を不純物として含有するカリウム塩あるいは有機質肥料を主として対象とする。複合肥料では原料組成の推定などのために塩素の定量が行われる。
B 試薬液の調製
1)標準硝酸銀液
2)標準チオシアン酸カリウム液
3)石灰乳
 塩素を含有しない水酸化カルシウムを水に懸濁させ、使用に際してよく振り混ぜる。
4)指示薬
i)クロム酸カリウム液
ii)硫酸鉄(Ⅲ)アンモニウム液
C 試料液の調製
1)カリウム塩類
 分析試料2.5~5gを500mlのメスフラスコに正確にとり、水を加えてよく振り混ぜ、更に標線まで水を加えて乾燥ろ紙でろ過する。
2)有機質肥料
 分析試料2.5~5gを白金皿に正確にとり、石灰乳を加えてよく混合し乾燥したのち、有機物がまったく炭化するまでよく加熱する。これを水で500mlのメスフラスコに移し込んでよく振り混ぜ、更に標線まで水を加えて乾燥ろ紙でろ過する。
3)複合肥料
D 定量
a リン酸塩を含有しない場合
 試料液50~100ml(Clとして5~100mgがよい)をトールビーカーに正確にとり(溶液が酸性またはアルカリ性のときは、リトマス試験紙を用いて希水酸化ナトリウム液または希硝酸で正しく中和する)、指示薬としてクロム酸カリウム液1~2滴を加えて標準硝酸銀液で滴定し、塩素(Cl)の量を算出する。
   0.1M硝酸銀液1ml=3.545mgCl
b リン酸塩を含有する場合
 試料液50~100ml(Clとして5~100mgがよい)を三角フラスコに正確にとり、硝酸(1+1)5mlを加え、次いで標準硝酸銀液の一定量(当量より2~5ml過剰に加える)及びニトロベンゼン3mlを加えゴム栓をして激しく振り混ぜて沈殿を海綿状に凝固させる。ゴム栓を洗い去り、指示薬として硫酸鉄(Ⅲ)アンモニウム液1mlを加え、余剰の硝酸銀を標準チオシアン酸カリウム液で逆滴定し、上記aに示した式によって塩素(Cl)の量を算出する。

5.6 カドミウム

5.6.1 原子吸光測光法

A 適用範囲
 カドミウムをおおよそ1μg/g以上含有する試料を主要な対象とする。更にカドミウムが微量の場合には共存する物質からの分離や濃縮などの操作を行う必要がある。
B 装置
 原子吸光分析装置 カドミウム中空陰極ランプ。フレームレス原子化装置付きの装置でもよい。
C 試薬液の調製
1)標準カドミウム液
 カドミウム(Cd)1gをトールビーカーに正確にとり、硝酸10ml及び水約50mlを加え、加熱して溶かしたのち冷却し、水を加えて正確に1000mlとし標準カドミウム原液を作成する(この液1mlはCdとして1mgを含有する)。使用に際してこの原液の一定量を0.5M塩酸で正確に100倍に希釈する(この液1mlはCdとして10μgを含有する)。
2)カルシウム液
 炭酸カルシウム(CaCO)2.497gを1000mlのメスフラスコにとり、水で潤したのち塩酸(1+1)96mlを徐々に加えて溶かし、更に標線まで水を加える(この液は塩酸につき約0.5Mであり、1ml中にCaとして1mgを含有する)。
3)過塩素酸-硝酸液
D 試料液の調製
a カドミウム全量
1)無機質肥料及びリン鉱石
 分析試料1~5gをトールビーカーに正確にとり、塩酸約30ml及び硝酸約10mlを加え、時計皿で覆い約30分間煮沸したのち、時計皿を除き酸をほとんど蒸発させる。放冷後塩酸(1+5)25mlを加え加熱して溶かし、水でことごとく100mlのメスフラスコに移し込み、冷却後標線まで水を加えて直ちに乾燥ろ紙でろ過する。
 ただし熔成リン肥・ケイ酸質肥料などのようにケイ酸を多量に含有する肥料にあっては、分析試料2~5gをトールビーカーに正確にとり、少量の水で潤し硝酸約5ml及び過塩素酸約10mlを加え、時計皿で覆い約30分間煮沸する(この間時々かき混ぜまたは振り混ぜて沈殿を分散させる)。次に時計皿を除き突沸する近くまで加熱を続け酸の蒸発を進める。少時放冷後塩酸(1+5)25mlを加え加熱して溶かしたのち、上記「水でことごとく」以下により試料液を作成する。
2)有機物を含有する肥料
b 水溶性カドミウム
 分析試料50~100gを共栓試料瓶に正確にとり、分析試料の10倍量の水(あらかじめ20℃とする)を加え20℃に保ちながら往復振り混ぜ機(振り混ぜ回数を毎分約200回に、振り混ぜ幅を4~5cmに調整したもの)を用いて6時間振り混ぜたのち、直ちに孔径1μmのガラス繊維ろ紙を用いてろ過する。なお、ろ過が著しく困難な場合には振り混ぜた液を毎分約3000回回転で20分間遠心分離し、その上澄み液をとってもよい。
E 定量
a カドミウム全量
 1ml中にCdとして0.1~2μgとなるように試料液そのまま、あるいはその一定量を0.5M塩酸で正確に一定倍に希釈した液につき、原子吸光分析装置により波長228.8nmの吸光度を測定する。同時に標準カドミウム液を数段階にメスフラスコに正確にとり、測光した試料液中のカルシウム濃度(4.5.1.2.Eにより定量するとよい)と定容後ほぼ同一になるようにカルシウム液をそれぞれ添加し標線まで0.5M塩酸を加えた液につき、試料液の場合と同一条件で測光して作成した検量線からカドミウム(Cd)の量を求める。
 フレームレス原子化法の場合には、試料液20~50μl(Cdとして2ng以下がよい)を正確に原子化装置にとり、あらかじめ設定した最適条件(一例をあげると、乾燥温度100~120℃、灰化温度350℃、原子化温度1500℃)で原子化し、波長228.8nmの吸光度を測定する。同時に標準カドミウム液を数段階の濃度に作成し、試料液の場合と同一のミクロピペットを用いて正確に原子化装置にとり、同一条件で吸光度を測定して検量線を作成し、試料液のカドミウム(Cd)濃度を求める。
(付記)
1.試料液にカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、鉄塩などを多量に含有し定量の妨げとなる場合には、妨害成分を標準カドミウム液にも同量程度添加する必要がある。ただし、バックグラウンドの吸収による誤差を自動的に補正できる装置を用いた場合には、標準カドミウム液にカルシウム液その他の干渉補償液を加えなくてもよい場合がある。
2.カドミウムが微量であり、また共存物質による妨害が上記の方法によってもなおみられる場合には、試料液の一定量をとり、下記bの(付記)または5.19.1.Eにより溶媒抽出を行い、その有機相について原子吸光測光することができる。
b 水溶性カドミウム
 前記aに従ってカドミウム(Cd)の量を求める。ただしカルシウム液その他の干渉補償液の添加は多くの場合は不要である。
(付記)
 この方法によっては測定感度が十分でない場合、あるいは妨害となる成分が存在する場合には、試料液の一定量(100~500ml)をビーカーに正確にとり、次のいずれかによって操作したのち原子吸光測光するとよい。
i)塩酸5mlとリン酸2mlを加え、約5分間煮沸したのち冷却する。これを1000mlの分液漏斗に移し、0.01%ジチゾンクロロホルム液10mlを加え約1分間激しく振り混ぜて静置し、下層のクロロホルム相を分離する。水相にジチゾンクロロホルム液5mlを加えて同様に振り混ぜ、再び抽出する。この抽出操作をクロロホルム相が赤色に着色しなくなるまで繰り返す。抽出したクロロホルム相はビーカーに合わせ入れ、加熱してクロロホルムを揮散させたのち、硝酸2mlと過塩素酸2mlを加えて加熱しほとんど乾固するに至らせる。放冷したのち塩酸(1+5)12.5mlを加えて溶かし、水で正確に50mlとして定量に用いる。
ii)塩酸10mlを加え、約5分間煮沸したのち冷却する。これを1000mlの分液漏斗に移し、クエン酸アンモニウム液〔クエン酸二アンモニウム10gを水約80mlに溶かしアンモニア水(1+1)を滴下してpHを約9としたのち水で100mlとし、これを分液漏斗に移し1%ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム液2mlと酢酸=1-ブチル(またはクロロホルム)10mlを加え、激しく振り混ぜて静置し、有機相を棄て水相は再び酢酸=1-ブチル10mlずつで抽出を繰り返し、水相を乾燥ろ紙でろ過したもの〕10ml、10%塩化ヒドロキシルアンモニウム液2ml及び指示薬としてチモールブルー〔4.1.2.3.B.6).iii)による〕1滴を加え、アンモニア水(1+1)を青色になるまで加え、更に過剰に5mlを加える。0.03%ジチゾンクロロホルム液10~20mlを加え約2分間激しく振り混ぜて静置し、クロロホルム相を別の分液漏斗に移す。水相にジチゾンクロロホルム液5mlずつを加えてクロロホルム相が赤色に着色しなくなるまで同様に操作して抽出を繰り返す。クロロホルム相は合わせて、これをアンモニア水(1+200)20mlで、次いで水20mlで洗浄する。このクロロホルム相に塩酸(1+50)20mlを加え約2分間激しく振り混ぜて静置し、クロロホルム相を別の分液漏斗に分離し、再び塩酸(1+50)10mlを加え激しく振り混ぜて静置し分離する(このクロロホルム相には水銀、銅、ニッケル、コバルトなどが含まれる)。逆抽出した水相にはカドミウムのほかに鉛、亜鉛などが含まれるので、これらを合わせて50mlのメスフラスコに移し塩酸(1+50)を標線まで加える。
iii)ii)に従って操作してクエン酸アンモニウム液10mlを加えたのち、指示薬としてメタクレゾールパープル(0.1%アルコール液)2~3滴を加えアンモニア水(1+1)をわずかに微紫色になるまで加える。1%ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム液5mlを加え、更に酢酸=1-ブチル20mlを加え約1分間激しく振り混ぜて静置し、有機相を分離する。水相には酢酸=1-ブチル5mlずつを加えて抽出を繰り返し、分離した有機相は合わせてビーカーに移し、加熱して酢酸=1-ブチルを揮散させ、次に前記i)の「硝酸2mlと」以下に従い操作する。
 または有機相を25mlのメスフラスコに移し標線まで酢酸=1-ブチルを加え、この液を直接噴霧させてもよい。なお溶媒として酢酸=1-ブチル以外に、クロロホルム、四塩化炭素、4-メチル-2-ペンタノン(イソブチルメチルケトン)などを用いることができるが、このうち前2者は直接噴霧させるのには不適当である。この方法ではカドミウム以外に銅、鉛、亜鉛なども抽出分離できる。

5.6.2 陽極溶出ボルタンメトリー>

A 適用範囲
 本法は原子吸光測光法よりも更に高感度である。妨害となる成分は通常あまりないと考えられるが、キレート化合物を作る有機物はあらかじめ分解しておく必要がある。
B 装置
 陽極溶出分析装置 作用電極として水銀-黒鉛複合電極またはつり下げ水銀滴電極を持つ装置
C 試薬液の調製
1)標準カドミウム液
 5.6.1.C.1)により作成した標準カドミウム原液を使用に際して水で1000倍に正確に希釈する(この液1mlはCdとして1μgを含有する)。
2)酢酸ナトリウム液
 特級酢酸ナトリウム(NaCH・CO・3HO)170gを水約900mlに溶かし、pH計を用い過塩素酸(精密分析用がよい)を滴下してpH5.0とし水を加えて1000mlとする。
D 試料液の調製
a カドミウム全量
(付記)
 本法では試料液、標準液ともに塩酸濃度はさほど高くする必要はないので、作成に当たってその量を減らし、約0.1Mとするのがよい。
b 水溶性カドミウム
 ただし、この液にエチレンジアミン四酢酸塩などのキレート剤が含有される場合には、試料液の一定量をビーカーに正確にとり、硝酸5ml及び過塩素酸2~5mlを加えて加熱して分解し、ほとんど乾固近くまで蒸発する。これに塩酸(1+11)5mlを加えて溶かし水で50~100mlのメスフラスコに移し、標線まで水を加える。
E 定量
 試料液の0.1~1ml(Cdとして10~500ngがよい)を陽極溶出分析装置のセルに正確にとり、酢酸ナトリウム液4mlを加え、不足する場合には水を補って液量を5mlとする。これに窒素ガスを通して酸素を除き、-1000mV以下の電位で一定時間電着させたのち、電位をプラス方向に掃引しながら電圧-電流曲線を記録し、カドミウムによるピークの高さを測定する。標準カドミウム液を数段階の濃度になるように正確に希釈し、試料液の場合と同様に操作して検量線を作成しカドミウム(Cd)の量を求める。あるいは試料液に一定量の標準カドミウム液を添加し、添加前後のピークの差を基にしてカドミウム(Cd)の量を算出してもよい。
(付記)
 微分パルス法により電圧-電流曲線を記録する装置では、試料液を水で適当な濃度に希釈して直接測定すればよく、酢酸ナトリウム液の添加は省略できる。

5.7 グアニジン性窒素

5.7.1 薄層クロマトグラフィー

A 適用範囲
 グアニル尿素塩及びグアニル尿素塩を含有する複合肥料に適用する。
B 試薬液の調製
1)標準グアニジン液
 グアニル尿素液[例えば(CO)・HSO・2HO]0.6gを数本の25mlのメスフラスコにそれぞれとり,水約20mlを加えて溶かしたのち,各フラスコにグアニジン塩[例えば(CH・HCO]をグアニジン性窒素(N)として0,20,40,60,80,100mgのように数段階にそれぞれ加えて溶かし,標線まで水を加えて正確に25mlとする。
2)展開溶媒
 n-ブチルアルコール8容,アンモニア水5容及び酢酸メチル8容を混合する。
3)発色試薬
 ニンヒドリン1gをn-ブチルアルコール8容,酢酸3容及び水5容の混合液100mlに溶かす。
C 試料液の調製
1) グアニル尿素塩
 試料10gを小ビーカーにとり,水20mlを加えマグネチックスターラーで約30分間かき混ぜたのち,漏斗形ガラスろ過器(3G4)でろ過し水で洗浄してろ液を正確に25mlとする。
2) グアニル尿素塩を含有する複合肥料
 試料10gを小ビーカーにとり,2.5%水酸化カリウムアルコール溶液20mlを加えマグネチックスターラーで約30分間かき混ぜたのち,漏斗形ガラスろ過器(3G4)でろ過しアルコールで洗浄してろ液を正確に25mlとする。
D 定量
 試料液の一定量(グアニル尿素塩のときは2~4μl,またグアニル尿素塩を含有する複合肥料のときは10~20μl)を,ミクロシリンジを用いて2μlずつ薄層クロマトグラフィー用ガラス板(硫酸カルシウム約10%を混合したシリカゲルを厚さ約0.4mmに塗布し,105~110℃で1時間乾燥したもの)の下端から約2cmの位置にはん点状(直径5mm以下がよい)に付けて原点とする。次いで展開溶媒を約1cmの深さに入れて一夜間放置した展開槽(角形ろ紙の下端を浸して展開溶媒の蒸気の飽和を促進させるとよい)に上記の試料液を付けた薄層クロマトグラフィー用ガラス板を浸し,展開溶媒が原点から10~12cm上昇するまで静置したのち,展開槽から取り出し120±20℃で約1時間乾燥する。室温まで放冷後発色試薬を噴霧し,再び120±20℃で約30分間加熱し展開したスポットを発色させる。同時に同一条件で各濃度段階の標準グアニジン液についても2μlを同様に展開してスポットを発色させる。試料液及び標準液から発色させたスポットの大きさ及び色濃度を比較してグアニジン性窒素(N)の量を求める。
(付記)
1. 薄層クロマトグラフィー用ガラス板の代わりに同種の吹き付け剤の塗布されたクロマトシートを用いてもよい。ただし,この際の乾燥及び加熱発色温度は105±1℃(通風下がよい)とする。
2. 前記の条件におけるグアニジンのRf[(原点からスポットまでの距離)/(原点から展開前端までの距離)]は0.3~0.4,グアニル尿素のRfは0.5~0.6である。

5.8 クロム

5.8.1 ジフェニルカルバジド法

A 適用範囲
 クロムを含有する試料に適用できるが,試料液中に有機物などの還元性物質が共存することは不可であり,あらかじめ除去する必要がある。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準クロム液
 標準試薬二クロム酸カリウム(KCr)(めのう乳鉢を用いて粉末とし,100~110℃に3~4時間保ったのち硫酸デシケーター中で放冷したもの)0.2829gを水に溶かして正確に1000mlとし標準クロム原液を作成する(この液1mlはCrとして100μgを含有する)。使用に際してこの原液の一定量を水で正確に50倍に希釈する(この液1mlはCrとして2μgを含有する)。
2)ジフェニルカルバジド液
 ジフェニルカルバジド(1,5-ジフェニルカルボヒドラジド)[(C(NH)CO]0.5gをアセトン100mlに溶かす。
3)硫酸液
 硫酸(1+6)に希過マンガン酸カリウム液を滴下して薄桃色とする。
4)硫酸鉄(Ⅲ)アンモニウム液
 硫酸鉄(Ⅲ)アンモニウム[FeNH(SO・12H0]50gを硫酸(1+1)10ml及び水に溶かして1000mlとする。
5)硝酸アンモニウム液
 硝酸アンモニウム液10gを水に溶かして1000mlとする。
D 試料液の調製
a クロム全量
1)有機物を含有しない肥料
 分析試料0.5~1gをめのう乳鉢に正確にとり,無水炭酸ナトリウム5gと硝酸ナトリウム0.5gの混合物を加えよく混合して白金るつぼに移し,初め徐々に加熱したのち約15分間強熱して融解する。融解物は水に溶かし,不溶解物をガラス棒でよくすりつぶし,クロムの量に応じて水で正確に100~500mlに希釈する。不溶解物は遠心分離によって除去する。
2)有機物を含有する肥料
 分析試料1gを白金るつぼに正確にとり,徐々に加熱して灰化する。もし灰化が不完全なときは,放冷後硫酸(1+1)数滴及び硝酸数mlを加えて蒸発乾固し,更に硝酸を数回添加し完全に分解したのち,硫酸を追い出し,初め低温で,のちに約500℃に加熱する。これに無水炭酸ナトリウム5gと硝酸ナトリウム0.5gの混合物を加えよく混合して前記1)と同様に融解・浸出する。
b 6価クロム
E 定量
a クロム全量
 試料液の一定量(Crとして1~50μgがよい)を50mlのメスフラスコに正確にとり,硫酸液を中和量より約2ml過剰に加え,数分間煮沸したのち,3%過マンガン酸カリウム液を溶液の色が赤紫色になるまで滴下し,更に2~3滴加えたのち,数分間静かに煮沸してクロムを完全に酸化する(加熱中に赤紫色が消えそうになったならば3%過マンガン酸カリウム液を滴加して常に赤紫色を保つ)。冷却後20%尿素液10mlを加え,激しくかき混ぜながら10%亜硝酸ナトリウム液を赤紫色が消えるまで1滴ずつ加える。少量の水で50mlのメスフラスコに移し,過剰の亜硝酸と尿素の反応による泡が消えるまで振り混ぜる。20℃以下に冷却したのち,ジフェニルカルバジド液1mlを加え,標線まで水を加えて振り混ぜ,約30分間放置後空試験の液を対照液として波長540nm付近の吸光度を測定する。別に標準クロム液を数段階に正確にとり,試料液の場合と同様に操作して作成した検量線からクロム(Cr)の量を求める。
(付記)
 クロム含有量が微量の肥料にあっては,次に記載する酢酸エチルによる油出を行う。
 分析試料の融解物を5M(1/2硫酸)硫酸15mlに溶かし水で小型分液漏斗に移し,酢酸エチル20mlを正確に加え,更に10%過酸化水素水数滴を加えて振り混ぜる。次に酢酸エチル相15mlを小型ビーカーに正確にとり,5M(1/2硫酸)硫酸2.5mlを加えて蒸発乾固し,更に10%過酸化水素水数滴を滴下して,再び蒸発乾固する。放冷後水約20ml及び0.2%過マンガン酸カリウム液1mlを加え水浴上で加熱し,もし赤紫色が消えたならば更に少量の0.2%過マンガン酸カリウム液を加えたのち,10%尿素液5mlを加えかき混ぜながら1%亜硝酸ナトリウム液を滴下して赤紫色を消す。これにリン酸(1+5)0.5mlを加えて少時煮沸し,放冷後ジフェニルカルバジド液2mlを加え水で正確に50mlとしたのち,30~90分間のうちに,本文の「空試験の液を対照液として」以下によりクロムを定量する。
b 6価クロム
 試料液の一定量[Cr(VI)として1~50μgがよい]を50mlのメスフラスコに正確にとり,硫酸液2mlを加え,次に前記aの「ジフェニルカルバジド液1mlを加え」以下に従い吸光度を測定する。別に同量の試料薬を小型ビーカーに正確にとり,硫酸2ml及びアルコールを少量加え煮沸してクロム酸を還元する。この液を50mlのメスフラスコに移し,次に前記aの「ジフェニルカルバジド液1mlを加え」以下に従い吸光度を測定し,さきに測定した吸光度を補正してクロム(Cr)(VI)の量を求める。
(付記)
 鉄などの妨害となる成分が多量に存在する場合には試料液の一定量をビーカーに正確にとり,硫酸鉄(Ⅲ)アンモニウム液1mlを加え,アンモニア水(1+4)を加えて微アルカリ性とし,アンモニア臭がしなくなるまで煮沸し,温所で静置して沈殿を熟成する。ろ紙(5種A)でろ過し,熱硝酸アンモニウム液で洗浄する。ろ液は50mlのメスフラスコに受け,次に本文の「硫酸液2mlを加え」以下に従ってクロム(Cr)(VI)の量を求める。

5.8.2 原子吸光測光法

A 適用範囲
 本法は迅速性において優れている。ただしクロムが微量の場合には妨害となる成分があることに留意しなければならない。
B 装置
 原子吸光分析装置 クロム中空陰極ランプ。多燃料フレームがよい。またはフレームレス原子化装置付きの装置を用いる。
C 試薬液の調製
1)標準クロム液
 5.8.1.C.1)により作成した標準クロム原液を使用に際して数段階に水で正確に一定倍に希釈する。
2)二硫酸カリウム液
 特級二硫酸カリウム(K)100gを水に溶かして1000mlとする。
D 試料液の調製
a クロム全量
1)無機質肥料及びリン鉱石
 分析試料1gをトールビーカーに正確にとり,少量の水で潤したのちリン酸5~10ml及び硝酸10mlを加え時計皿で覆い徐々に加熱して約10分間煮沸する。時計皿を除きビーカーの内壁を少量の水で洗ったのち,次第に温度を上げながら加熱し硝酸を揮散させ放冷する。これに硝酸5~10mlを加え再び加熱し,完全に分解する。次いで硫酸5mlを加え加熱して硫酸の白煙が発生するに至らせ放冷する。これに水を加えて少時煮沸して溶かし100~500mlのメスフラスコに移し標線まで水を加えたのち乾燥ろ紙でろ過する。
2)有機物を含有する肥料
(付記)
 上記1),2)の方法ではクロムの溶解が不完全な場合には,不溶解物をろ過し水で洗浄したのち白金るつぼに移し,次いで5.8.1.D.a.2)の「徐々に加熱して灰化」以下に従ってクロムを浸出し,酸分解液と合わせるのがよい。
b 6価クロム
E 定量
a クロム全量
 試料液に一定量(Crとして10~1500μgがよい)を100mlのメスフラスコに正確にとり,5M塩酸を加え希釈後の濃度が0.5~1Mの間で一定になるようにする。二硫酸カリウム液10mlを加え標線まで水を加える。この液について原子吸光分析装置により357.9nmの吸光度を測定する。同時に標準クロム液の一定量を数段階に100mlのメスフラスコに正確にとり,試料液と同様に操作して作成した検量線からクロム(Cr)の量を求める。
 なお,フレームレス法の場合には試料液10~50μl(Crとして3ng以下がよい)を正確に原子化装置にとり,あらかじめ設定した最適条件(一例をあげると乾燥温度100~120℃,灰化温度1000℃,原子化温度2700℃)で原子化し,波長357.9nmの吸光度を測定する。同時に標準クロム液を数段階の濃度に作成し,試料液の場合と同一のミクロピペットを用いて原子化装置に正確にとり,同一条件で吸光度を測定して作成した検量線から試料液のクロム(Cr)濃度を求める。
b 6価クロム
 5.8.1.E.b(付記)により操作し,熱硝酸アンモニウム液で洗浄して得られたろ液を50mlのメスフラスコに移し,次に前記aの「5M塩酸を加え」以下により操作してクロム(Cr)(VI)の量を求める。
 ただし試料液中にクロム(VI)以外のクロムが存在しない場合には鉄塩による除去操作を省略してもよい。

5.9 コバルト

5.9.1 ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム法>

A 適用範囲
 数μg/g以上のコバルトを含有する試料に適用する。
B 装置
 吸光光度分析装置 紫外部での測光ができる装置であり,吸収セルは石英製とする。
C 試薬液の調製
1)標準コバルト液
 金属コバルト(Co;99.5%以上)をコバルトとして1gになるようにビーカーに正確にとり,硝酸(1+1)40mlを加え加熱して溶かし,水で正確に1000mlとして標準コバルト原液とする(この液1mlはCoとして1mgを含有する)。この液を使用に際して水で正確に100倍に希釈する(この液1mlはCoとして10μgを含有する)。
2)ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム液
 ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム[Na(CNCS・3HO]2gを水に溶かして100mlとする。
3)クエン酸アンモニウム液
 特級クエン酸(C・HO)250gをとり,冷却しながらアンモニア水250mlを徐々に加えて溶かし,pH計を使いアンモニア水及び希硝酸でpH9に調製する。これを分液漏斗に移しジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム液10ml及びベンゼン50mlを加え激しく振り混ぜて静置し,有機相を捨てる。水相に水を加えて500mlとする。
4)ピロリン酸ナトリウム液
 特級ピロリン酸ナトリウム(Na)40gを水に溶かして1000mlとする。
D 試料液の調製
E 定量
 試料液の一定量(Coとして1~20μgがよい)を小型ビーカーに正確にとり,クエン酸アンモニウム液15mlを加えpH計を使い希硝酸及び希アンモニア水を滴下してpH9付近にする。ピロリン酸ナトリウム液4mlを加え,沈殿が生じたならばろ過してから,小型分液漏斗に移し,水で約50mlとする。ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム液3ml及びベンゼンを正確に10ml加え,約5分間激しく振り混ぜたのち静置し水相を捨てる。ベンゼン相に硝酸(1+10)15mlを加え約5分間激しく振り混ぜたのち静置し水相を捨てる。再び硝酸(1+10)15mlを加え同様に激しく振り混ぜたのち約20分間以上静置し,再び5分間激しく振り混ぜたのち静置し水相を捨てる。ベンゼン相につき空試験の液を対照液として波長320nm付近の吸光度を測定する。同時に標準コバルト液を数段階に正確にとり,試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線からコバルト(Co)の量を求める。

5.9.2 原子吸光測光法>

A 適用範囲
 数μg/g以上のコバルトを含有する試料に適応する。
B 装置
 原子吸光分析装置 コバルト中空陰極ランプ。
C 試薬液の調製
1)標準コバルト液
2)クペロン液
 クペロン(ニトロソ-ベータ-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム)[CN(NO)ONH]5gを水に溶かして100mlとし,冷暗所に貯蔵する。
3)クエン酸アンモニウム液
 5.9.1.C.3)による。ただし不純物の除去にはジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムとベンゼンの代わりにクペロン液25ml及び4-メチル-2-ペンタノン(イソブチルメチルケトン)25mlを用いる。
D 試料液の調製
E 定量
 試料液の一定量(Coとして0.5~50μgがよい)を小型ビーカーに正確にとり,クエン酸アンモニウム液5mlを加えpH計を使い希硝酸及び希アンモニア水でpH6~7にする。この液を小型分液漏斗に移し,クペロン液10ml及び水を加えて約30ml(または約70ml)とし,4-メチルー2-ペンタノン(イソブチルメチルケトン)を正確に5ml(コバルトが多い場合には10ml)加え数分間激しく振り混ぜたのち静置し,有機相につき,原子吸光分析装置により波長240.7nmの吸光度を測定する。同時に標準コバルト液を数段階に正確にとり,試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線からコバルト(Co)の量を求める。

5.10 三二酸化物[酸化アルミニウム及び酸化鉄(Ⅲ)の合量]

5.10.1 酢酸アンモニウム法

A 適用範囲
 リン鉱石中のアルミニウム及び鉄の合量を定量するものであり,慣習として三二酸化物として表示する。アルミニウム及び鉄の個々については定量できない。
B 試薬液の調製
1)酢酸アンモニウム緩衝液
 アンモニア水67ml及び酢酸386mlを水に加えて1000mlとし,pHを4.0±0.2に調整する。
2)リン酸アンモニウム液
 リン酸二水素アンモニウム(NHPO)100gを水に溶かして1000mlとする。
3)硝酸アンモニウム液
C 試料液の調製
 分析試料2.5gをトールビーカーに正確にとり,塩酸約30ml及び硝酸約10mlを加えて約30分間煮沸したのち,水浴上で蒸発乾固する。これに少量の塩酸を加えて蒸発乾固することを数回繰り返したのち放冷する。次に塩酸(1+4)約50mlを加え加熱して溶かし,冷却後水を加えて正確に500mlとし乾燥ろ紙でろ過する。
D 定量
 試料液の一定量(Al+Feとして5~100mgがよい)をビーカーに正確にとり(リン酸が鉄及びアルミニウムに対する相当量より少ないときは,適量のリン酸アンモニウム液を加える),加熱してアンモニア水でわずかに白濁するまで中和し,酢酸アンモニウム緩衝液20mlを加え水で約150mlに希釈し水浴上で約2時間加熱してろ過する。沈殿は熱硝酸アンモニウム液で数回デカントし更に洗浄したのち,希塩酸に溶かして元のビーカーに洗い込み,リン酸アンモニウム液2~3mlを加えたのち再び前回と同様にアンモニア水及び酢酸アンモニウム緩衝液を加え,水浴上で沈殿を熟成させてろ過・洗浄・乾燥する。これを600~800℃で約2時間強熱したのち,重さを正確に量って酸化アルミニウム(Al),酸化鉄(Ⅲ)(Fe)及びリン酸(P)の合量とする(この値をAとする)。この沈殿をビーカーに移して硝酸に溶かし(溶けにくいときは塩酸を加えて完全に溶かす),以下4.2に準じてリン酸(P)を定量する(この値をBとする)。A-Bを酸化アルミニウム(Al)及び酸化鉄(Ⅲ)(Fe)の合量とする。

5.10.2 8-キノリノール法

A 適用範囲
 本法はアルミニウム及び鉄のそれぞれの量を同時に測定し両者を合わせて三二酸化物として表示する。したがってこの両元素の個々の定量に応用することができ,またリン鉱石以外の試料にも応用できる。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準アルミニウム液
 特級アルミニウム(Al)0.1gをトールビーカーに正確にとり,塩酸20ml,硝酸5ml及び水約50mlを加え,加熱して溶かしたのち冷却し,水を加えて正確に1000mlとし標準アルミニウム原液を作成する(この液1mlはAlとして100μgを含有する)。この原液の各種一定量を水で正確に一定容積に希釈し[この際塩酸(1+1)を希釈液100mlにつき2mlの割合で加える],1ml中にAlとして2,4,6,・・・・・・μgを含有する液を作成する。
2)標準鉄液
3)8-キノリノール液
 8-キノリノール(オキシン;CN・OH)1gを小型ビーカーにとり,酢酸2.5mlを加え水浴上で加熱して溶かしたのち,水を加えて100mlとする。
4)クロロホルム
 クロロホルムを硫酸(1+20),水酸化ナトリウム液,水の順におのおので数回ずつ分液漏斗を用いて洗浄したのち,無水塩化カルシウムを加えて蒸留する。
5)シアン化カリウム-塩化アンモニウム液
 シアン化カリウム3g及び塩化アンモニウム10gを水に溶かして500mlとし,希アンモニア水でpHを8~9に調整する。これを分液漏斗に移し,8-キノリノール-クロロホルム液約10mlを加えて油出し,更にクロロホルム約10mlずつを用いて3回油出をくり返しクロロホルム相を捨てる。
6)酢酸アンモニウム液
 酢酸アンモニウム150gを水に溶かして1000mlとする。
7)水酸化ナトリウム液
 水酸化ナトリウム40gを水に溶かして1000mlとする。
8)8-キノリノール-クロロホルム液
 8-キノリノール1gをクロロホルムに溶かして100mlとする。
D 試料液の調製
E 定量
 試料液の一定量(Alとして2~50μg,Feとして5~100μgがよく,もし含有量が大で希釈するときは,希釈液100mlにつき塩酸1mlを含有するように塩酸を補う)を小型ビーカーに正確にとり,水を加えて約30mlとし,8-キノリノール液3ml及び酢酸アンモニウム液3~5mlを加えたのち,水で小型分液漏斗に移して50mlとする。次にクロロホルム10mlを正確に加えて約1分間激しく振り混ぜたのち,下層をあらかじめ無水硫酸ナトリウム1gを入れた小型共栓フラスコに移す。
 なお試料液にニッケル,銅などの重金属を含有する場合には,クロロホルム相をあらかじめシアン化カリウム-塩化アンモニウム液約10mlを入れた小型分液漏斗に移して約1分間激しく振り混ぜたのち,下層をあらかじめ無水硫酸ナトリウム1gを入れた小型共栓フラスコに移す。
 このようにして得られたクロロホルム相について空試験の液を対照液として波長395nm付近及び470nm付近の吸光度をそれぞれ測定する。470nm付近の吸光度より鉄(Fe)の量をあらかじめ作成した検量線により求め,またその吸光度より鉄による395nm付近の吸光度を算出しこの値を測定した同波長の吸光度から差し引き,この差よりアルミニウム(Al)の量をあらかじめ作成した検量線により求める。検量線の作成には,標準アルミニウム液及び標準鉄液のそれぞれ10mlを小型ビーカーに正確にとり,試料液の場合と同様に操作してアルミニウムについては波長395nm付近の吸光度を,鉄については波長395nm付近及び470nm付近の吸光度を,それぞれ測定する。アルミニウム及び鉄は酸化物に換算し合量を求める。
   酸化アルミニウム(Al)=アルミニウム(Al)×1.8895
   酸化鉄(Ⅲ)(Fe)=鉄(Fe)×1.4297
(付記)
 鉄の量に対してアルミニウムの量が多いときは(Al/Fe=20以上),Alとして50μg以下となるように試料液を正確にとり,アルミニウムの量を本文のように395nm付近及び470nm付近の波長で求め,一方試料液を更に多く正確にとり,波長470nm付近の吸光度を測定し,この波長におけるアルミニウムによる吸収を補正して鉄の量を求める。

5.10.3 原子吸光測光法

A 適用範囲
 アルミニウム及び鉄のそれぞれを原子吸光測光法で定量し,両者を合わせて三二酸化物の量とする。
B 装置
原子吸光分析装置
 アルミニウム及び鉄の中空陰極ランプ。アルミニウムについては酸化二窒素-アセチレンフレームも可能であるが,フレームレス原子化装置を用いるのがよい。
C 試薬液の調製
1)標準アルミニウム液
 5.10.2.C.1)により作成した原液を,使用に際して0.5M塩酸で正確に希釈しAlとして5~100μg/mlとする。ただしフレームレス法の場合には0.1~0.5M硝酸で希釈し,Alとして100~2500ng/mlとするのがよい。
2)標準鉄液
D 試料液の調製
 5.10.1.Cによる。なお有機物を含有する肥料にあっては,5.1.2.D.a.2)によってもよい。
E 定量
 試料液の一定量(Alとして0.5~10mgがよい)を100mlのメスフラスコに正確にとり,0.5M塩酸を標線まで加えたのち,原子吸光分析装置により酸化二窒素-アセチレンフレームを用い波長309.2nmの吸光度を測定する。
 フレームレス原子化法を用いるときは,試料液をAlとして100~2500ng/mlとなるように希釈する。この際には,硝酸0.1~0.5Mの範囲で一定濃度とするのがよく,もし塩酸溶液とする場合には希釈液100ml中にリン酸(1+1)4mlの割合で加えておくのがよい。このようにして希釈した試料液の10~50μl(Alとして2~50ngがよい)を原子化装置に正確にとり,波長309.2nmの吸光度を測定する。測定条件の一例を示すと,乾燥温度100~120℃,灰化温度850℃,原子化温度2600℃である。
 いずれの場合にも,標準アルミニウム液について試料液の場合と同一条件で同時に作成した検量線からアルミニウム(Al)の量を求める。全操作にわたって空試験を行い,結果を補正する。
 別に,5.17.2によって鉄(Fe)に量を求め,5.10.2.Eに示した各係数を乗じて三二酸化物の量を算出する。

5.11 ジシアンジアミド性窒素

5.11.1 ニッケルグアニル尿素法

A 適用範囲
 石灰窒素及びその変成物を含有する肥料を対象とする。
B 試薬液の調製
1)ニッケルグアニル尿素飽和アンモニア液
 前回の分析で得た沈殿をアンモニア水(1+12)に溶かして飽和させろ過する。
 ただしこの液は作成後6ヶ月以上経過したものは使用できない。
2)ニッケル試薬液
 硝酸ニッケル[Ni(NO・6HO]40g及び硝酸アンモニウム20gを1)液100mlに溶かしてろ過する。
3)マンニトール液
 マンニトール100gを1)液に溶かして1000mlとする。
4)水酸化ナトリウム液
 水酸化ナトリウム200gを水に溶かして1000mlとする。
C 試料液の調製
 分析試料5~10gをフラスコに正確にとり,アセトン200mlを正確に加え[アセトン100mlに溶けるジシアンジアミド性窒素(N)は26℃で0.53g]1分間30~40回転の振り混ぜ機で2時間振り混ぜたのち乾燥ろ紙でろ過する。
D 定量
 試料液の一定量(ジシアンジアミド性Nとして30~130mgがよい)を正確にとり,水溶上で蒸発乾固し,これに0.25M硝酸20mlを加えて1時間45分~2時間15分で乾固するように水浴上で蒸発し(時計皿で覆い蒸発を調節するとよい)硝酸をことごとく揮散させる。次に残留物にマンニトール液約40ml及びニッケル試薬液約3mlを加えて溶かしたのち水酸化ナトリウム液2~4mlを滴下する(ジシアンジアミドが多量に存在するときは溶液は直ちに緑黄色を呈するが,ジシアンジアミドが存在しないときは緑色を呈する)。この際アンモニアが逸散すると水酸化ニッケル及び使用した試薬液中に含まれるニッケルグアニル尿素の一部が沈殿するおそれがあるので,これを防ぐため広口の共栓量り瓶を使用して沈殿を生成させるのがよい。この液を一夜間放置すると沈殿はことごとく沈降して溶液は緑色に変わる(水酸化ナトリウム液を過剰に加えた場合には,沈殿を完全に生成させるのに長時間を要する)。生成した沈殿をあらかじめ重さを正確に量ったるつぼ形ガラスろ過器(1G4)に移し込みアンモニア水(1+200)約100mlで洗浄し,約125℃で1時間乾燥してニッケルグアニル尿素[Ni(CO)]として重さを正確に量る。これに係数0.4295を乗じてジシアンジアミド性窒素(N)の量とする。
 ただし試薬については前記の方法と同様な操作で空試験を行って結果を補正する必要がある。
(付記)
 本法において油が共存する場合には,ジシアンジアミドを硝酸で定量的にグアニル尿素に変化させることは困難であるので,油で処理した石灰窒素にあっては,前記のアセトン浸出液を蒸発乾固したのち,ジエチルエーテルを加えて油を溶かし(ジシアンジアミドはジエチルエーテルに溶けない)デカンテーションによりこれを除去する。

5.12 水銀

5.12.1 還元気化法

A 適用範囲
 肥料及びリン鉱石に適用する。
B 装置
 還元気化水銀分析装置
 JISK0102の66.1.1に示されたものに準ずる。
C 試薬液の調製
1)標準水銀液
 硫酸デシケーター中で乾燥した特級塩化水銀(Ⅱ)(HgCl)0.677gを水に溶かして正確に1000mlとし,標準水銀原液を作成する(この液1mlはHgとして500μgを含有する)。使用に際してこの原液の一定量を水で正確に1000倍に希釈する(この液1mlはHgとして500ngを含有する)。
2)塩化スズ(Ⅱ)液
 塩化スズ(Ⅱ)(SnCl・2HO)10gに硫酸(1+20)60mlを加え,かき混ぜながら加熱して溶かし,冷却後水を加えて100mlとし,少量の粒状スズを加えて着色瓶に貯蔵する。
3)過マンガン酸カリウム液
 過マンガン酸カリウム(KMnO)50gを水に溶かして1000mlとする。
4)塩化ヒドロキシルアンモニウム液
 塩化ヒドロキシルアンモニウム(塩化ヒドロキシルアミン)(HONHCl)200gを水に溶かして1000mlとする。
5)尿素液
 尿素200gを水に溶かして1000mlとする。
D 試料液の調製
a 水銀全量
1)肥料
 分析試料の一定量(無機質肥料では2~5g,有機物を含有する肥料では5~10gがよい)を正確にとり,分解フラスコ(丸底であって共通すり合わせのものがよい)に移し,必要によりガラス玉数個を入れ水約5mlで潤す。このフラスコに分留受器(下部の三方コックを通して測管より凝縮液を取り出せるものがよい)及びその上に還流冷却器を付ける。分留受器に硝酸10~20ml及び硫酸10ml(下水汚泥などでは硝酸50mlとし硫酸を加えなくてもよい)を入れ,コックを回して分解フラスコに徐々に加える。有機物が多い場合あるいは泡の発生が激しい場合には一夜間放置するとよい。コックを開いたままとし,凝縮液を分解フラスコに還流させながら徐々に加熱し,激しい反応が終わったならばコックを閉じ加熱を続け,分留受器中の凝縮液が試料中及び加えた水の量にはほぼ等しくなったならばコックを回して測管より100または250mlのメスフラスコに移すとよい。コックを再び閉じ分解液を濃縮し分解を完全に行う。液が暗色の場合には分留受器中の凝縮酸を少量ずつ分解フラスコに戻し加熱を続ける。液が無色または淡黄色になったならば加熱を止め放冷する。分留受器中の酸を分解フラスコに戻し,冷却器は少量の水で洗い,メスフラスコに移しとった凝縮液を分留受器に戻し,少量の水で分解フラスコに洗い込む。尿素液5~10mlを加え少時煮沸させ,60℃以下に放冷後過マンガン酸カリウム液2ml(有機物を含有する肥料の場合には過マンガン酸カリウムを1g)を加え再び煮沸する。このとき過マンガン酸の色が消える場合には更に過マンガン酸カリウムの添加を繰り返し,その色が少なくとも10分間以上残るようにする。放冷後さきのメスフラスコに移し標線まで水を加える。
(付記)
 試料によっては次記の方法によってもよいが,その場合にはあらかじめ水銀の回収率を検討しておく必要がある。
ⅰ)分析試料1~5gを100~50mlのメスフラスコに正確にとり,分析試料1gにつき五酸化バナジウム(V)約50mg及び硝酸約10mlの割合で加えて少時加熱する(泡の発生が激しい場合には一夜間放置するとよい)。放冷後分析試料1gにつき硫酸約5mlを加え,140~150℃で約15分間以上加熱し放冷後標線まで水を加える。
2)リン鉱石
 分析試料2gを分解フラスコ(共通すり合わせのものがよい)に正確にとり,少量の水で潤したのち,リン酸(1+1)25ml及び過マンガン酸カリウム液2~3mlを加え,還流冷却器をつけて約1時間加熱分解する。この間に過マンガン酸の色が消えた場合には60℃以下に放冷後過マンガン酸カリウム液の2~3滴を加えてその色が残るようにして更に約10分間加熱する。放冷後100mlのメスフラスコに移し標線まで水を加える。
b 水溶性水銀
(付記)
 試料液に妨害となる成分が含有されている場合には,試料液の全量またはその一定量を分解フラスコ(共通すり合わせのものがよい)にとり,硫酸(1+1)20mlと過マンガン酸カリウム液15~20mlを加え,次に前記a.2)の「環流冷却器をつけて」以下に従って分解したのち,100~250mlメスフラスコに移し標線まで水を加える。
E 定量
 作成直後の試料液の全量または上澄み液の一定量(装置により適量は異なるがHgとして1μg前後がよい)を還元気化水銀分析装置の試料瓶に正確に移し,水で約100mlとする。過マンガン酸の色が消えるまで塩化ヒドロキシルアンモニウム液を滴下し,直ちに塩化スズ(Ⅱ)液10mlを加えて手早く装置に連結し,ダイヤフラムポンプを作動させて空気を循環させ,吸光度が急速に上昇し一定量を示すまでポンプの作動を続ける。得られた253.7nmにおける吸光度から,次記により作成した検量線により水銀(Hg)の量を求める。
 すなわち標準水銀液を数段階に正確にとり,試料液の場合と同時に同一条件で操作して吸光度を測定し検量線を作成する。全操作にわたって必ず空試験を行い,結果を補正する。
(付記)
 D.a.1).(付記).ⅰ)によって試料液を作成した場合には塩化ヒドロキシルアンモニウム液の滴下は不要である。

5.12.2 加熱気化法

A 適用範囲
 広範囲の試料に適用できる。試料量が少ないために偏析の生じるおそれがあることから,試料の均質化,汚染に気をつけるとともに,測定を反覆して再現精度の大きさを確認しておくことが必要である。
B 装置
 加熱気化式水銀分析装置 水銀捕収装置付きのもの。
C 試薬液の調製
1)標準水銀液
 5.12.1.C.1)により作成した標準水銀原液の一定量を正確にとり,システイン液を加えて500倍に希釈し,1ml中にHgとして1μgを含有する標準液を作成する。この液はガラス容器に入れ冷暗所に保存すると約1週間使用できる。
2)システイン液
 システイン[HS・C・NH・COOH]10mgに水及び硝酸約2mlを加えて溶かし1000mlとする。
3)加熱助剤
 水酸化カルシウムと炭酸ナトリウムの等量混合物,及び活性アルミナ いずれも使用に際して約800℃で約1時間加熱し放冷する。
D 定量
 試料容器をあらかじめ約800℃で約1時間加熱し,シャーレ内で放冷する。この容器に加熱助剤の水酸化カルシウム・炭酸ナトリウム混合物約3gの一部を敷き,この上に微粉砕した分析試料の一定量(10~200mgとし,Hgとして0.1~1000ngがよい)を正確にとり,試料容器中の加熱助剤で覆う。この上に加熱助剤の活性アルミナの少量を薄くかぶせ,更に水酸化カルシウム・炭酸ナトリウム混合物の残りで覆う。この試料容器を水銀分析装置の加熱炉に入れ,波長253.7nmにおける水銀の吸光度を測定する。別に標準水銀液を数段階の濃度に正確に希釈し,それらの一定量をミクロピペット(標定しておく)で正確に試料容器にとり(加熱助剤は加えない),同様に操作して作成した検量線から試料中の水銀(Hg)の量を求める。
 必要により加熱助剤について空試験を行い結果を補正する。
(付記)
1.塩化物が多い試料(数%以上)では,試料量を50mg以下とする必要がある。
2.硫酸塩を含有する試料では気化温度を上げ,約900℃とする必要がある。

5.13 スルファミン酸(アミド硫酸)

5.13.1 亜硝酸ナトリウム法

A 適用範囲
 製造工程よりスルファミン酸塩(アミド硫酸塩)が混入する硫酸アンモニウム塩及び複合肥料に適用する。本法の定量下限はおおよそ0.05%である。
B 試薬液の調製
1)標準亜硝酸ナトリウム液
 亜硝酸ナトリウムの0.1M溶液を作成し,次の方法によりその濃度を標定する。
 標準試薬アミド硫酸(スルファミン酸)(NHSOH;減圧硫酸デシケーター中で約48時間乾燥したもの)の0.1M溶液を作成し,その一定量を500ml容のビーカーに正確にとり,適量の水で希釈し硫酸(1+1)約6mlを加え更に水を加えて約300mlとし,40~50℃に加温しヨウ化カリウムデンプン液を外部指示液として亜硝酸ナトリウム液で滴定する。滴定は母液をかき混ぜながら徐々に行い,終点付近においては1分間に1滴を滴下する程度とし,最後の滴下1分後に母液の1滴が指示液を青変するときを終点とする。
2)指示液
 ヨウ化カリウムデンプン液 デンプン2gを少量の水で泥状とし,これを約400mlの熱水に加えてかき混ぜ,冷却後ヨウ化カリウム1gを少量の水に溶かして加え更に水を加えて約500mlとし,ろ過するかまたは放置して上澄み液をとる。
C 試料液の調製
1)硫酸アンモニウム塩
 分析試料10~20g(NHSOHとして10~100mgがよい)をビーカーに正確にとり,水を加えて溶かし水酸化ナトリウム10~20gを加え,更にデバルダ合金約3gを加え,激しい反応が衰えたのち水浴上で1時間加熱する。放冷後硫酸(1+1)を加えて中和し,ろ過・熱水洗浄してそのろ液を試料液とする。
2)複合肥料
 分析試料20g(NHSOHとして10~100mgがよい)をビーカーに正確にとり,温水を加えてかき混ぜ,ろ過・熱水洗浄する。このろ液に水酸化ナトリウム10~20gを加え,更にデバルダ合金約7g(硝酸塩を含有しない場合には約3g)を加え,以下前項1)による。
 ただし試料に尿素を含有する場合には,デバルダ合金処理後更に水酸化ナトリウム約20gを加えて強アルカリ性とし,煮沸濃縮して,120℃付近で(液量は20~30mlを保つこと)尿素分解する(1~2時間を要する)。
D 定量
 試料液に硫酸(1+1)約6mlを加え更に水を加えて約300mlとし,40~50℃に加熱し,かき混ぜながらヨウ化カリウムデンプン液を外部指示薬として標準亜硝酸ナトリウム液で滴定し,スルファミン酸(アミド硫酸)(NHSOH)の量を算出する。滴定は標準亜硝酸ナトリウム液の標定方法による。
   0.1M亜硝酸ナトリウム液1ml=9.709mgNHSO
(付記)
1. デバルダ合金処理のために添加する水酸化ナトリウムは含有するアンモニウム塩に相当する量以上を必要とする。
2. 指示薬ヨウ化カリウムデンプン液は亜硝酸のほかに,過酸化物,鉄(Ⅲ)塩などによっても変色される。このようなおそれのあるときは次記のグリース試薬液を使用するとよい。
 スルファニル酸(HSO・C・NH)0.5gを15%酢酸150mlに溶かして第1液とし,α-ナフチルアミン(C10・NH)0.2gに水約20mlを加え煮沸してろ過し,そのろ液を15%酢酸150mlに加えて第2液とし,第1液と第2液を混合して着色瓶に貯蔵する。

5.14 セレン

5.14.1 ジアミノベンジジン法

A 適用範囲
 主としてリン鉱石及び硫酸を原料として使用した肥料を対象とする。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準セレン液
 金属セレン(Se;99.9%以上)1gを正確にとり,硝酸約20mlを加え加熱して溶かし,更に酸がほとんど揮散するまで加熱を続けたのち放冷し,水で正確に1000mlとし標準セレン原液とする(この液1mlはSeとして1mgを含有する)。使用に際してこの液に一定量を水で正確に100倍に希釈する(この液1mlはSeとして10μgを含有する)。
2)ジアミノベンジジン液
 四塩酸3,3´-ジアミノベンジジン[(NH・C・C・(NH・4HCI]0.5gを水に溶かして100mlとする。使用の直前に作成する。
3)エチレンジアミン四酢酸塩液
D 試料液の調製
1)無機質肥料及びリン鉱石
 分析試料1~5gをトールビーカーに正確にとり,少量の水で潤し硝酸約20mlを加え時計皿で覆い徐々に加熱して分解する。液量が約5mlになったならば硝酸約10mlを追加し再び加熱して分解を完全に行う。水約20mlを加えて加温して溶かし,放冷したのち100~250mlのメスフラスコに水で移し標線まで水を加えて乾燥ろ紙でろ過する。
2)有機物を含有する肥料
 分析試料1~2gをケルダールフラスコ(共通すり合わせのものがよい)に正確にとり,ガラス玉1~2個を加え,分析試料1gにつき硝酸約10mlを加え,空気冷却管を付けて徐々に加熱する(泡の発生が激しい場合には一夜間放置するとよい)。次第に加熱温度を上げ硝酸が冷却管の下部で凝縮するようにし,更に約10分間加熱して放冷する。注意しながら過塩素酸2~4mlを加え,冷却管を付けて徐々に加熱を約15分間続ける。冷却管を取りはずし再び加熱して過塩素酸の白煙が発生するようになったのち約15分間後に加熱を止め放冷する。フラスコの内壁を少量の水で洗い再び過塩素酸の白煙が発生するまで加熱し放冷する。水約20mlを加えて溶かし,水で100mlのメスフラスコに移し標線まで水を加えて乾燥ろ紙でろ過する。
E 定量
 試料液の一定量(Seとして1~100μgがよい)を小型ビーカーに正確にとり,水で約30mlとしこれに塩化アンモニウム約5g及びエチレンジアミン四酢酸塩液15mlを加えて溶かす。pH計を使いアンモニア水(1+2)及びギ酸でpH2.5とし,これにジアミノベンジジン液2mlを加え,かき混ぜたのち室温で約45分間以上放置する。pH計を使いアンモニア水(1+2)とギ酸でpH6に調整し,直ちに小型分液漏斗に移し水で約60mlとし,トルエンを正確に10ml加え約1分間激しく振り混ぜて静置し,下層の水相を捨てる。トルエン相は脱脂綿を通してろ過し,そのろ液につき空試験の液を対照液として420nm付近の吸光度を測定する。同時に標準セレン液を数段階に正確にとり,同一条件で操作して作成した検量線からセレン(Se)の量を求める。

5.14.2 原子吸光測光法

A 適用範囲
 肥料及びリン鉱石に適用される。試料1μg/g以上で測定精度がよい。
B 装置
 原子吸光分析装置 セレン中空陰極ランプ。フレームレス原子化装置付きのもの。
C 試料液の調製
1)標準セレン液
2)ビスムチオールⅡ液
 ビスムチオールⅡ(3-フェニル-5-メルカプト-1,3,4-チオジアゾール-2-チオンカリウム塩,CK)0.5gを水に溶かして100mlとする。使用に都度作成する。
D 試料液の調製
E 定量
 試料液の一定量(Seとして0.5~10μgがよく,微量のときは試料液の全量を用いる)を小型分液漏斗に正確にとり,塩酸(1+1)20mlを加え水で液量を30~50mlの一定量とし,ビスムチオールⅡ液5mlを加え軽く振り混ぜて2~3分間放置する。クロロホルム1mlを正確に加え1~2分間激しく振り混ぜる。クロロホルム相の10~20μl(Seとして25~200ng)を原子化装置に正確にとり,あらかじめ設定した最適条件(一例をあげると,乾燥温度80℃,灰化温度950℃,原子化温度2300℃)で原子化し,波長196.0nmの吸光度を測定する。同時に標準セレン液を数段階に正確にとり,同一条件で吸光度を測定して作成した検量線からセレン(Se)の量を求める。
(付記)
1. 試料液中のセレンが10μgを超えるときは,Se10μgごとにビスムチオールⅡ液0.5ml,クロロホルム1mlずつを増加するとよい。
2. 本法で灰化温度が低い場合には,ビスムチオールⅡなどの分解が不完全となりバックグラウンドの値が高くなるので,灰化を900~1000℃,40秒間とするのがよい。

5.15 チオシアン酸塩(硫青酸化物)

5.15.1 硫酸銅法

A 適用範囲
 主として硫酸アンモニウム塩及びこれを含有する複合肥料を対象とする。本法の定量下限はおおよそ0.05%である。
B 試薬液の調製
1)標準硫酸銅液
 特級硫酸銅(CuSO・5H0)6.242gを水に溶かして正確に1000mlとして0.025M溶液を作成する。
2)フェロシアン化カリウム紙
 ろ紙片をフェロシアン化カリウム(ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム)の飽和液に浸したのち風乾する。
C 定量
 分析試料5gをビーカーに正確にとり,水を加えて溶かし,煮沸したのち少量の亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)を加え,標準硫酸銅液で滴定してチオシアン酸アンモニウム(NHSCN)の量を算出しチオシアン酸塩(硫青酸化物)の量とする。滴定の終点は溶液の1滴をフォロシアン化カリウム紙に接触して褐色を呈する点とする。
   0.025M硫酸銅液1ml=1.903mgNHSCN

5.16 チタン

5.16.1 過酸化水素法

A 適用範囲
 ケイ酸質肥料などのスラグ類またはこれを原料とする肥料に適用する。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準チタン液
 金属チタン(純度99.6%以上)0.1gをビーカーに正確にとり,時計皿で覆って硫酸(1+1)50ml及び塩酸(1+1)10mlを加え加熱して分解する。時計皿を除き,硝酸1mlを加え沸騰させないように加熱して硫酸の白煙が発生するに至らせる。放冷後硫酸(1+9)で500mlのメスフラスコに移し込み,標線まで硫酸(1+9)を加える(この液1mlはTiとして200μgを含有する)。
2)チオ硫酸ナトリウム液
D 試料液の調製
 分析試料0.5~1g(Tiとして5mg以下)を白金皿に正確にとり,硫酸(1+1)で湿し,46%フッ化水素酸15mlを加え砂浴上で加熱し,ケイ素及び硫酸を揮散させる。これに塩酸10mlを加えて加熱し,温水でビーカーに移して試料液とする。
E 定量
 試料液にアンモニア水(1+1)を加えてわずかに白濁するまで中和し,次に塩酸(1+1)5mlを加え水で約300mlに希釈し,チタン量に応じてチオ硫酸ナトリウム液40~80mlを加え,約10分間煮沸したのち,ろ過して酢酸(1+50)で沈殿を洗浄し,乾燥後ろ紙とともに磁製るつぼに入れて灰化・強熱する。これをあらかじめ二硫酸カリウム約3gを溶融して放冷した白金るつぼに移し,徐々に加熱して融解する。これを硫酸(1+9)に溶かし室温まで放冷後100mlのメスフラスコに移し,3%過酸化水素水10ml及びリン酸5mlを加えて発色させ標線まで硫酸(1+9)を加え,約30分間放置後波長400~420nmの吸光度を測定する。別に標準チタン液を数段階に正確にとり,試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線からチタン(Ti)の量を求める。
(付記)
 強熱して得た二酸化チタンにバナジウムまたは銅を含有するときは,これを白金るつぼに移し46%フッ化水素酸約5ml及び硫酸(1+1)10mlを加えて硫酸の白煙が発生するまで加熱し,放冷後水約5mlを加え,次に10%水酸化ナトリウム液で中和し更にその5mlを過剰に加え,約5分間煮沸したのちろ過して温水で洗浄する。沈殿はろ紙とともに白金るつぼに移して強熱し,以下本文により二硫酸カリウムで処理してチタンを定量する。

5.16.2 原子吸光測光法

A 適用範囲
 ケイ酸質肥料に適用する。
B 装置
 原子吸光分析装置 チタン中空陰極ランプ。
C 試薬液の調製
1)標準チタン液
2)アルミニウム液
 金属アルミニウム5gをトールビーカーにとり,塩酸(1+1)100mlを加え,加熱して溶かしたのち冷却し,水を加えて1000mlとする。
D 試料液の調製
 5.16.1.Dによる。ただし,「温水でビーカーに移して試料液とする。」代わりに,温水で100mlのメスフラスコに移し込み,冷却後標線まで水を加えて直ちに乾燥ろ紙でろ過する。
E 定量
 試料液(Tiとして0.5~5mgがよい)の一定量を100mlのメスフラスコに正確にとり,アルミニウム液20mlを加え,更に標線まで水を加えたのち,原子吸光分析装置により酸化二窒素-アセチレンフレームを用い波長365.4nmの吸光度を測定する。同時に標準チタン液を数段階に正確にとり,試料液の場合と同一条件で作成した検量線からチタン(Ti)の量を求める。

5.17 鉄

5.17.1 フェナントロリン法(またはジピリジル法)

A 適用範囲
 すべての試料に適用する。鉄は本法以外に5.10.2によって定量しても差し支えない。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準鉄液
 鉄(Fe)0.1gをトールビーカーに正確にとり,塩酸20ml及び水約50mlを加え,加熱して溶かしたのち冷却し,水を加えて正確に1000mlとし標準鉄原液を作成する(この液1mlはFeとして100μgを含有する)。この原液の各種一定量を水で一定容積に正確に希釈し[この際塩酸(1+1)を希釈液100mlにつき2mlの割合で加える],1ml中にFeとして2,4,6,・・・・・・μgを含有する液を作成する。
2)三混酸
3)フェナントロリン液
 1,10-フェナントロリン(C12・HO)0.1gを約80℃の水約80mlに溶かし,冷却後水を加えて100mlとし,冷暗所に貯蔵する。
4)酢酸ナトリウム緩衝液
 酢酸ナトリウム(NaCH・CO・3H0)138g及び酢酸120mlを水に溶かして1000mlとする。
5)塩化ヒドロキシルアンモニウム液
D 試料液の調製
a 鉄全量
 分析試料1g(あるいは液体肥料の場合には約1mlの重さを量る)をトールビーカーに正確にとり,硫酸5ml及び硝酸30ml,あるいは三混酸10~20mlを加えて加熱し,硫酸あるいは過塩素酸の白煙が発生するようになったならば時計皿で覆い更に約10分間加熱する。放冷後水約50mlを加え加熱して溶かし,冷却後水を加えて正確に250mlとし乾燥ろ紙でろ過する。
(付記)
 酸による分解が不完全な分析試料にあっては,酸で処理したのち,不溶解物をろ過して熱水で洗浄しろ紙とともに白金るつぼに入れて灰化・強熱する。これに約6倍量の無水炭酸ナトリウムを混合して融解したのち,塩酸(1+1)及び温水で溶かし,前のろ液に合わせ水を加えて正確に250mlとする。
b 水溶性鉄
(付記)
 試料液に有機物やキレート試薬を含有し定量を妨げるときは,ろ液の一定量を小型ビーカーに正確にとり,硫酸(1+1)5ml及び硝酸5ml,あるいは三混酸5~10mlを加えて加熱し,硫酸あるいは過塩素酸の白煙が発生するようになったならば時計皿で覆い約10分加熱し,放冷後水を加えて正確に100~250mlとし(必要があれば乾燥ろ紙でろ過する)試料液とする。
E 定量
 試料液の一定量(Feとして5~200μgがよい)を50mlのメスフラスコに正確にとり,塩化ヒドロキシルアンモニウム液3ml,酢酸ナトリウム緩衝液4ml及びフェナントロリン液4mlを加え,更に標線まで水を加えたのち,空試験の液を対照液として波長500~520nmの吸光度を測定する。別に標準鉄液のそれぞれ10mlを正確にとり,試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線から鉄(Fe)の量を求める。
(付記)
1.フェナントロリン液の代わりに0.1%α,α’-ジピリジル(C10)液を同量用いてもよい。
2.試料液に多量の銅を含有する場合には,フェナントロリン液を5~10mlに増量する。
3.試料液に多量の酸を含有するため発色液のpHが4~4.5に調製されない場合には,あらかじめ中和に要する25%酢酸ナトリウム液の量を求めておき,塩化ヒドロキシルアンモニウム液を加えたのちその量の酢酸ナトリウム液を添加し,更に酢酸ナトリウム緩衝液を加えて発色させる必要がある。

5.17.2 原子吸光測光法

A 適用範囲
 すべての試料に適用する。本法,特にフレームレス原子化法を用いるときは,試薬,容器,雰囲気などからの鉄の混入に気を付ける必要がある。
B 装置
 原子吸光分析装置 鉄中空陰極ランプ。
C 試薬液の調製
1)標準鉄液
 5.17.1.C.1)により作成した標準鉄原液を使用し,使用に際して0.5M塩酸(フレームレス法のときは0.1~0.5M硝酸がよい)で正確に希釈して,1ml中にFeとして0~10μgを含有する液を数段階に作成する。
D 試料液の調製
a 鉄全量
b 水溶性鉄
E 定量
 試料液の一定量(Feとして30~600μgがよい)を100mlのメスフラスコに正確にとり,0.5M塩酸を標線まで加え,原子吸光分析装置により波長248.3nmの吸光度を測定する。
 フレームレス原子化法を用いるときには,5.10.3.Eのアルミニウムのフレームレス原子化法の場合と同様にして,Feとして10~250ng/mlとなるように希釈し,この液の10~50μl(Feとして0.2~5ngがよい)を原子化装置に正確にとり,波長248.3nmの吸光度を測定する。測定条件の一例を示すと,乾燥温度100~120℃,灰化温度1200℃,原子化温度2500℃である。いずれの場合にも標準鉄液について試料液の場合と同一条件で同時に作成した検量線から鉄(Fe)の量を求める。
 全操作にわたって空試験を必ず行い,結果を補正する。

5.18 銅

5.18.1 ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム法

A 適用範囲
 微量要素として銅を添加した肥料を主として対象とするが,更に広範囲の肥料にも適用される。
B 装置
 吸光光度分析装置
C 試薬液の調製
1)標準銅液
 標準試薬銅(Cu)(2%酢酸,水,アルコールで順次洗い,直ちに無水塩化カルシウムデシケーターまたは硫酸デシケーター中で24時間以上乾燥したもの)1gをトールビーカーに正確にとり,硝酸5mlを加えて溶かし更に塩酸5mlを加えて水浴上で蒸発乾固したのち,塩酸(1+1)10mlを加えて溶かし水を加えて正確に1000mlとし,標準銅原液を作成する(この液1mlはCuとして1mgを含有する)。使用に際してこの原液の一定量を水で正確に100倍に希釈する(この液1mlはCuとして10μgを含有する)。
2)ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム液
 ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム[Na(CNCS・3HO]0.1gを水に溶かして100mlとする。使用直前に作成する。
3)クエン酸液
 クエン酸(C・HO)200gを水に溶かして1000mlとする。
4)エチレンジアミン四酢酸塩液
 エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(Na1012・2HO)10gを水に溶かして1000mlとする。
D 試料液の調製
a 銅全量
b 水溶性銅
 5.1.1.D.bによる。ただし(付記)の操作は必要ない。
E 定量
 試料液50mlを小型ビーカーに正確にとり,硫酸2ml及び硝酸1mlを加えて加熱し,硫酸の白煙が発生するようになったならば時計皿で覆い,更に硝酸を少量滴下して有機物を完全に分解しかつ鉄を完全に酸化し,放冷後水を加えて正確に100mlとする。
 この液の一定量(Cuとして5~60μgがよい)を小型分液漏斗に正確にとり,水を加えて20mlとし,クエン酸液10ml,エチレンジアミン四酢酸塩液5ml及びアンモニア水10mlを加えて混合する。次にジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム液10mlを加えて混合したのち,四塩化炭素20mlを正確に加えて3~4分間激しく振り混ぜる。静置後四塩化炭素相を分離して乾燥ろ紙でろ過したのち,直ちに空試験の液を対照液として波長430nm付近の吸光度を測定する。同時に標準銅液を数段階に正確にとり,試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線から銅(Cu)の量を求める。

5.18.2 原子吸光測光法

A 適用範囲
 銅は原子吸光測光法によって最も測定しやすい元素の一つであり,広範囲の試料に適用される。
B 装置
 原子吸光分析装置 銅中空陰極ランプ。
C 試薬液の調製
1)標準銅液
 5.18.1.C.1)により作成した標準銅原液の一定量を使用に際して水で正確に100倍に希釈する(この液1mlはCuとして10μgを含有する)。
D 試料液の調製
a 銅全量
b 水溶性銅
E 定量
 試料液の一定量(Cuとして10~2000μgがよい)を100mlのメスフラスコに正確にとり,0.5M塩酸を標線まで加え,原子吸光分析装置により波長324.8nmの吸光度を測定する。同時に標準銅液を数段階に正確にとり,試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線から銅(Cu)の量を求める。
 必要があれば全操作にわたって空試験を行い,結果を補正する。

5.18.3 陽極溶出ボルタンメトリー

A 適用範囲
 5.18.2より高感度であり,微量の銅をカドミウム,鉛などと同時に測定する場合に特に好適である。
B 装置
 陽極溶出分析装置 作用電極として水銀-黒鉛複合電極またはつり下げ水銀滴電力を待つ装置。
C 試薬液の調製
1)標準銅液
 5.18.1.C.1)により作成した標準銅原液の一定量を使用に際して水で正確に1000倍に希釈する(この液1mlはCuとして1μgを含有する)。
2)酢酸ナトリウム液
D 試料液の調製
a 銅全量
b 水溶性銅
E 定量
 試料液の0.1~1ml(Cuとして10~500ngがよい)を陽極溶出分析装置のセルに正確にとり,次に5.6.2.Eの「酢酸ナトリウム液4mlを加え」以下に従って銅によるピークの高さを測り,銅(Cu)の量を求める。
 全操作にわたって空試験を行い,結果を補正する。

5.19 鉛

5.19.1 原子吸光測光法

A 適用範囲
 鉛を含有する肥料及び肥料原料を対象とするが,一般に存在量が少ないこと,また原子吸光測光法の感度があまり高くないことから溶媒油出と組み合わせる必要がある。
B 装置
 原子吸光分析装置 鉛中空陰極ランプ。
C 試薬液の調製
1)標準鉛液
 特級鉛(Pb)1gをトールビーカーに正確にとり,硝酸10ml及び水約30mlを加え加熱して溶かし,冷却後水を加えて正確に1000mlとし標準鉛原液を作成する(この液1mlはPbとして1mgを含有する)。使用に際してこの原液の一定量を水で正確に1000倍に希釈する(この液1mlはPbとして1μgを含有する)。
2)ヨウ化カリウム液
 ヨウ化カリウム(KI)60gを水に溶かして100mlとする。
3)リン酸
 特級であり不純物として鉛の含有量の低いもの。
D 試料液の調製
a 鉛全量
(付記)
 下水汗泥などで試料中の硫酸塩などにより鉛の溶解が不完全な場合には,不溶解物をろ過・水洗したのち,熱1M酒石酸アンモニウム液50mlを注いで鉛を浸出し,この浸出液について5.6.1.E.b.(付記)ⅲ)の「アンモニア水(1+1)をわずかに」以下に従って鉛を油出[有機溶媒としては4-メチル-2-ペンタノン(イソブチルメチルケトン)がよい]し,この有機相を噴霧して鉛(Pb)を定量し,酸分解液について得られた鉛(Pb)の量に加算するとよい。
b 水溶性鉛
E 定量
 試料液の一定量(Pbとして1~30μgがよく,液量30ml以下)を分液漏斗に正確にとり,リン酸8ml及びヨウ化カリウム液2mlを加え,更に水を加えて約40mlとしたのち,4-メチル-2-ペンタノン(イソブチルメチルケトン)10mlを正確に加え,約1分間激しく振り混ぜたのち少時静置する。直ちに直射光を避けながら4-メチル-2-ペンタノン相につき,原子吸光分析装置により波長283.3nmの吸光度を測定する。同時に標準鉛液を数段階に正確にとり,試料液の場合と同一条件で操作して作成した検量線から鉛(Pb)の量を求める。
 必要があれば全操作にわたって空試験を行い,結果を補正する。
(付記)
 水溶性鉛であって本法によっては測定感度が十分でない場合,あるいは妨害となる成分が存在する場合には,5.6.1.E.b(付記)のⅱ)またはⅲ)による。

5.19.2 陽極溶出ボルタンメトリー

A 適用範囲
 5.19.1より高感度であり,微量の鉛をカドミウム,銅などと同時に測定する場合に特に好適である。
B 装置
 陽極溶出分析装置 作用電極として水銀-黒鉛複合電極またはつり下げ水銀滴電極を持つ装置。
C 試薬液の調製
1)標準鉛液
2) 酢酸ナトリウム液
D 試料液の調製
a 鉛全量
(付記)
 下水汚泥などで本法によっては鉛の溶解が不完全な場合には,5.19.1.D.a(付記)により操作して酸不溶解物中の鉛を浸出して別に鉛(Pb)の量を測定し,結果を補正するとよい。
b 水溶性鉛
E 定量
 試料液0.1~1ml(Pbとして10~500ngがよい)を陽極溶出分析装置のセルに正確にとり,次に5.6.2.Eの「酢酸ナトリウム液4mlを加え」以下に従って鉛によるピークの高さを測り,鉛(Pb)の量を求める。
 全操作にわたって試験を行い,結果を補正する。

5.20 二酸化炭素

5.20.1 塩化バリウム法

A 適用範囲
 リン鉱石及び炭酸塩を含有する肥料に適用する。
B 装置
 二酸化炭素定量装置 JISR9101の6.7に示された装置。
C 試薬液の調製
1)標準塩酸液
 塩酸の0.2M溶液を作成し,標準試薬炭酸ナトリウム(無水,NaCO;白金るつぼ中で500~550℃に40~50分間保ち硫酸デシケーター中で放冷したもの)0.25gをビーカーに正確にとり,適量の水を加えて溶かし,指示薬としてブロムフェノールブルーを加えて滴定し1mlに相当する二酸化炭素(CO)の量を算出する。
2)水酸化ナトリウム液
 水酸化ナトリウムの0.2M溶液を作成しポリエチレン瓶に貯蔵する。力価を特に標定する必要はない。
3)塩化バリウム液
 塩化バリウム(BaCl・2HO)10gを水に溶かして1000mlとし,フェノールフタレイン1mlを加える。
4)指示薬
ⅰ)フェノールフタレイン
ⅱ)ブロムフェノールブルー
 ブロムフェノールブルー0.1gを95%アルコール20mlに溶かし水を加えて100mlとする。
ⅲ)メチルオレンジ
 メチルオレンジ0.1gを水に溶かして100mlとする。
D 定量
 分析試料の一定量(COとして20~50mg;リン鉱石,骨粉類では1gをとる)を正確に分解フラスコにとり,水を加えて約50mlとし,メチルオレンジ1,2滴を加える。一端を封じた長さ2~3cmのガラス毛細管数本を入れ,滴下漏斗を差し込んで密栓する。水酸化ナトリウム液25mlをガス吸収器(三角フラスコ)に正確にとり,直ちに塩化バリウム液250mlを加え,トラップを経て分解フラスコと連結する。分解フラスコに滴下漏斗より塩酸(1+5)を1~2ml過剰となるように(リン鉱石では15~20ml,骨粉類では10~15ml),フラスコをゆっくり振り回しながら徐々に滴下する。分解フラスコを加熱し約20分間静かに煮沸する。加熱が終わったならばガス吸収器を分解フラスコから外しピンチコックで連結部を閉じたのち,吸収器を上下に激しく約5分間振り混ぜ,次にこの吸収器をゴム栓で密栓してビュレットを差し込み標準塩酸液で滴定する。別に試料の場合と同様に操作して空試験を行い,両滴定値の差から二酸化炭素(CO)の量を算出する。
 0.2M塩酸液1ml=4.401mgCO

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